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岡惚 3

◇…◆…◇  可愛い天使たちの笑顔で癒され、母親が手料理をたんまりと持たせてくれた。  嫌な事があった後だけに家族の暖かさが大浜を元気にさせた。  だが、折角、浮上した気分も一人の男によって打ち消されてしまった。 「ストーカーかよ」  そう呟くと、確かにと呟いて納得している。 「おいおい」  まじかよと胡乱な目を向ければ、 「ずっとここで考えてました」  という。あれから何時間たっていると思っているのだろう。呆れてため息すら出てこない。 「馬鹿か、お前」  石井のわきをすり抜けて歩きはじめれば、その手を掴まれて止められる。 「喧嘩をしたいんじゃなくて、仲良くなりたいんです。大浜さんと」  足にまとわりつく犬の頭を撫でると、喜んで尻尾をちぎれんばかりに激しく振るう。その姿が可愛くてくすっと口元に笑みを浮かべる。 「こいつの名前、なんていうんだ?」 「……武将」 「なんだ、お前、随分と渋い名前してんのな」  そのまま抱き上げると、舌を出して目をクリクリとさせている。 「貴方なら気が付いてくれるでしょ、名前の意味」 「将である武士だろ。あぁ、そういうことか」 「はい。貴方の城に対する愛には負けますが、戦国武将が好きで、こいつにつけました」 「そうか、凄いなお前、将なんだな。良く見りゃ赤い首輪に六文銭のチャームがついてんじゃん」  真田幸村かよと頭を撫でれば、他の武将のチャーム付の首輪もあるという。  細かい作業は嫌いじゃないらしく、これも自分でとりつけたのだという。城の模型も作るらしい。 「人にあまり興味を持てなくて本ばかりよんでました。歴史に興味をもったのもそれからです」  強引に社長に連れて行かれた飲み会の席で、城の事を熱弁する酔っ払いを見た時から興味をもったそうだ。 「そうだったのか」 「それでですね、貴方が自分でどうにかしろと言ったので、伝えようと思って」  そこに答えがたどり着くまでに今までかかったそうだ。  きちんと考えたんだなと、そういう所は好感が持てる。 「よし、言ってみ」  ちゃんと聞くからと胸を叩くと、咳払いを一つ。そして、 「デートしましょう」  その口から出た言葉は、想像していたものよりも斜め上に向かっていた。 「ぶほっ」  おもいきり咽てしまった。まさか、そういう意味で仲良くなりたいというのか。 「デートって、お前」 「駄目ですか?」  意味を解って言っているのだろうか。まじまじと相手を見ると、真剣な表情をしていた。 「良いよ」  嬉しそうな表情を浮かる。そんな顔も出来るんだと、思った途端に口元が緩んでいた。 「握り飯でよければ作ってこようか?」  料理なんて対してできもしないが簡単な物ならつくれる。 「はい。楽しみにしてます」  それだけで石井が良い顔をする。それだけで頑張ろうと思う気になるだろう。 「まぁ、期待せずにな」  そう照れ隠しをし、時間はあとで連絡すると互いに連絡先を交換し別れた。

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