8 / 19
逢引 1
ここは城跡として多くの歴史遺構が存在している。
歴史的有名な暗殺事件のあった門、橋、鎌倉末期~南北朝時代初期に活躍した武将の像を見学し、三つの番所を通り大きな芝生の広場へ向かう。ここが本丸のあった場所だ。
「俺、大浜さんとここからはじめたいんです」
「はは、すごろくのスタートみたいな? 俺、好きだよ、ここ」
まずは天守台の展望台へと向かう。石垣の土台が残っていて、スロープになっておりあがれるのだ。
「ここから近くにある門から出て、公園でお弁当タイムな」
「わかりました」
気が緩んだか、いつもよりも表情が柔らかく見える。
楽しんでくれているのか、そうだと良いと思いながら石井の背中を軽く叩く。
「よし、天守台を背景に撮るぞ」
「はい」
展望台からおり、スマートフォンで一緒に自撮りをする。ここに向かう途中で、石井からお願いされたことだ。
デートをした記念に、と、真面目な表情をしていうものだから、こちらが妙に照れてしまった。
のんびりと歩いて見て回った。公園に着く頃には丁度、お昼にするのに良い時間だ。
芝にレジャーシートを敷き、ピクニックを楽しむ家族連れや恋人の姿がある。
「俺も持ってきたんだぜ」
バッグに引っ掛けられる軽量でコンパクトなレジャーシートだ。
「用意が良いんですね」
ふ、と、口元が少し綻ぶ。
実はデートに行くからと、わざわざ買ってきた。
石井相手に何をしているんだと、何度か買うのをやめようかと思った。だが、こんな些細な事で喜んでもらえるならと思い直して購入したのだ。
思った通りに反応が貰えて、にやけそうになるのを必死でこらえる。
まだだ、おにぎりを食べた時の反応を見るまでは。
バックの中からおにぎりを取り出す。塩昆布とおかか、梅干と雑魚だ。
ポットの中には暖かいお茶をいれてきた。
「二種類も作ってくれたんですね」
「あぁ。混ぜて丸めただけだけど、簡単で美味いんだ」
「ありがとうございます。では、頂きます」
一口。目を見開いてまじまじと眺める。
「なんだ、不味かったか?」
特に変なモノは混ぜていない筈。自分でも一口食べてみるが、いつもと変わらない味だ。
それとも苦手なモノがあったのだろうか。
「それとも、なにか苦手なものがあったか」
「いえ、愛情はスパイスだって、本当なんですね」
真面目な顔をそういうとおにぎりを頬張る。
言われた方は照れずにいられない。
「馬鹿な事を言ってんじゃねぇっ!」
「食事なんて腹を満たすものでしかなかったですが、貴方が俺の為に作ってくれた事が、心まで満たしてくれました」
その言葉が胸に衝撃をあたえ、落ち着かないほど高鳴る。
「お、大げさだよ……」
「ありがとうござます」
美味しかったです、御馳走様と手を合わせた。
「あ、うん。おそまつさま」
石井は本当に自分の事がそういう意味で好きなんだ。
自分はどうだ、石井の事をどう想っているのだろう。
「大浜さん?」
おにぎりを持ったままの大浜に、石井がこちらを見つめている。
「あ、いや、ちょっと梅干がすっぱかっただけ」
と誤魔化し、おにぎりを口の中へと入れる。
お茶を飲んで一息。
彼を意識し始めた途端、気まずい思いを感じ始めた。
今は考えないように、これでは石井まで気まずくさせてしまう。
気持ちを切り替えろ、そういう意味で自分の両頬を叩く。
「どうしたんですか」
「飯食ったら、眠気がさ」
「ここ。気持ち良いですものね」
そういうと横になる石井に、自分も真似をして横になる。
確かに気持ちいい。
「少し、昼寝しましょうか」
その提案は魅力的だ。
だけど、結局は隣で眠る男の事ばかり考えながら空を眺めていた。
ともだちにシェアしよう!