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逢引 2

◇…◆…◇  面倒な人付き合いも、好いた相手だとこんなにも楽しくなるものなのか。  デートの誘いを受け入れてくれた。しかも自分の為に弁当まで用意してくれたのだ。  一日中、ふわふわとした感覚で、とても幸せな時間を過ごせた。  いつもの川沿いの土手道を歩く。  折角のデートだったのに周りの目が気になり、手をつなぐことが出来なかった。  だからひとけの無い事を理由に、大浜の手を掴んで指を絡ませた。 「な、いきなりなんだよっ」 「まだデートの最中なので」  どんな反応が返ってくるだろうか。少しだけだぞと許してくれるか、それとも拒否られるか。 「はは、そうだな」  その手をぶらぶらと何度か揺らしはじめる。 「いい年をした男が二人、手をつないでるって見られたら恥ずかしいな」 「そうですね」  でも、そう言いながらも繋いでいてくれた。  それが嬉しくて、芯が震え身体が熱くなってくる。  もっと、温もりを感じたい。そう思った時には大浜の手は離れていた。 「また月曜日な」 「はい」  別れが悲しいなんて、思う時がくるなんて。帰っていく大浜の後姿を名残惜しく、姿が小さくなるまで見送っていた。  大浜の姿を見れば、昨日のデートを思い出して口元が緩んでくる。それを隠すように口元に拳を押し当てる。  撮った写真はフォルダーに納めておいた。マンションに帰った後も、それを何度も眺めては浮かれた気分となっていた。 「何、ニヤニヤしているの」  その声にビクッと肩が震える。  いつの間に傍にいたのだろうか、やたらと嬉しそうな表情を浮かべた柴が隣に立っていた。 「なんですか、社長」 「だーって、孝平君がとっても楽しそうな顔をしているからさぁ」  表情が乏しくてわかりにくいのに、柴はちゃんと解ってくれる。 「どうせ、 からかおうとでも思ったんだろ」 「うん、それもあるけどさ、良い方に向かってるなって」  伯父として心配なんだよと、昔から親以上に自分を気に掛けてくれている。  嬉しいがそれを素直に言葉にして口にすることはできない。それところか、つれない態度をとってしまう。 「俺の事なんて気にかけてないで、仕事してください、社長」 「冷たいなぁ、良いよ、大浜君に聞くから。おおは――、んっ」  声を掛けようとしていたが口を手でふさぐ。  昨日の事は柴には話していないが、石井が反応を示すのは大浜絡みだという事はとうにばれているのだ。  素直じゃない甥よりも、素直な部下に聞け、そう思ったのだろう。 「やめてくれよな」  小声でそう言うと手を離した。 「おい、石井」  デスクで大浜が手をあげて石井を呼ぶ。 「はい、今行きます。余計な事を聞くなよ、伯父さん」  そう釘を差し大浜の元へと向かった。

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