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写真の中のあいつ5
―ライside―
「…たく。3発も撃ちやがって。スーツが台無しだ」
ベッドに横になっていた恵が、むすっとした声で呟いた。
僕は上着を脱ぎ捨てると、ベッドに登って、恵の腹の上に跨った。
「その割には、動じてなかったけど? 僕が撃たないとでも思っていたの?」
「いや。撃つことはあっても、中てにくるとは思わなかった」
「脳天を撃ち抜くチャンスをすっかり逃してしまいましたよ」
「弟の言葉に、驚いたか? 殺さないでって」
「ええ。言うとは思わなかったですからね。むしろ、今すぐこんな奴を殺してくれって言うと思っていたのに。とんだ誤算ですね」
僕は『はあ』と息をつくと、一歩前に出て、恵との距離を詰める。
「ここ、辛いですか? すっかりお預けですもんね」
僕は布団の上から、恵の股間を探った。
恵は「ふん」と鼻で笑うと、ベッドのわきにある棚に手を伸ばす。煙草の箱を手に取った恵が、口に咥えた。
「そりゃあ、辛いさ。今すぐにでも、莱耶を抱きたいくらいだよ」
「嘘ばっかり。僕が跨っても、余裕で煙草を咥えてるくせに」
「気を紛らわせてると言え。どうせ、俺が押し倒しても、足を広げるつもりなど毛頭ないくせに」
「いいですよ。今夜なら。僕の大事な弟に夜這でもかけられた大変だから」
恵が首を横に振ると、『退け』と僕に言った。
僕はくすっと笑うと、恵から降りた。ベッドに腰かけると、窓の外に見える夜景を眺めた。
「僕が跨っても、恵のご立派な逸物は立たないんですから。今後一切、セクハラまがいの言葉は慎んでくださいね。僕は意外と繊細なんです」
「よく言うぜ」
僕と恵は、目を合わせると微笑み合った。
「そろそろ僕は持ち場に戻りますね。バカな男がバカな行動にでないといいんですけどね」
僕は立ち上がると、ベッドに放り投げたスーツの上着を手に持って、恵の寝室を後にした。
恵のマンションを出てから20分もしないで、僕は恵の携帯にコールした。
「恵、バカが死んだよ。僕の大事な智紀を無理やり抱こうとするなんて。僕は決して許さない…てことだから、後始末は恵に頼むから」
僕は用件だけを告げると、ライフル銃をバイオリンのケースにしまって、肩にかけた。
智紀、僕がずっと近くで守っているから。智紀は、智紀の思うように生きるといいよ。
『あんた…誰だか知らねえけど、駄目だ。道元坂を殺さないでくれ』
智紀の言葉を思い出すと、「ふっ」と僕は口を緩めた。
智紀がそんなに、恵を想っているなんて驚きでしたよ。まあ、僕が死んだと知って、一人になった智紀を受けいれたのが恵だった…からでしょうね。
僕は立ち上がると、アパートの壁にへばりついて茫然としている智紀に背を向けて、歩き出した。
今夜は、恵と一緒に過ごせばいい。今夜だけは、目をつぶってあげましょうか。
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