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第5話

「……俺に言うことはそれだけか?」 頭上で低く呟かれた声に、秋山はビクッと反応し、恐る恐る顔を上げる。そして、怖いくらいに真剣な表情をした夏川と目が合い、ドキッと心臓が跳ねた。やはり相当怒っているんだな、と、覚悟をしていたものの、ズキズキと胸が痛んだ。 いや、どんな怒りも受け止めるべきだ、と、殴られるのも覚悟してぎゅっと目を閉じる。しかし、夏川から返ってきたのは握りこぶしではなく、優しいデコピンだった。 驚いて目を開けた秋山の前には、普段通りの穏やかな笑みを浮かべた夏川が居た。戸惑う秋山を置き去りにし、窓に向き直った夏川は、「知ってるか?」と、言った。 「メッセージ花火っていうのがあるらしいぜ。何でも、大切な人へのメッセージが、花火と共にスピーカーとFM放送で流れるんだと。凄いよな」 「……」 突然花火の話を始めた夏川を、秋山はポカーンと見つめる。 「さすがにここじゃ聞こえないよな。でも、花火と同時にメッセージを打ち上げるのって、何か良いよな」 確かに。と、思わず頷いた秋山の脳裏に、ふとある考えが浮かんだ。花火の音に紛らわせて、自分の気持ちを夏川に伝えてみてはどうだろうか、と。いや、止めよう。でもこんな機会はもうないかもしれないし、いずれバレてしまうくらいだったら、いっそ告げてしまえばいい。 秋山は瞬時に思考を巡らせ、やっぱり夏川に告白しようと、決心した。我ながら大胆な決断に戦慄する。だが、もとより望みはないのだから、だったら当たって砕かれようと、腹をくくった。 夏川の横顔に視線を向け、秋山はごくりと唾を飲んだ。そして、花火が打ち上がるタイミングを見計らい、音に言葉を乗せた。 ドーン!ドーン!ドドーン!! 「俺は夏川が好きだ……!」 パラパラと、一際大きな花が夜空に舞い上がった。 ドキドキと暴れる心臓を手でぎゅっと押さえ、俯いた秋山の頭に、ポンポンと、優しく何かが触れる。 それが、夏川の手だと理解するまで数秒かかった。 「やっと言ったな。ったく、どんだけ長く待たせるんだよ」 苦笑混じりに呟いた夏川の言葉と行動に、頭が混乱する。あたふたと顔を上げれば、至近距離に夏川の顔があり、秋山はぎょっと固まった。 唇に温かく柔らかいものが押し当てられ、ハッと、我に返る。それが夏川の唇で、自分は今キスをされている、と、理解するまでやはり数秒かかった。軽く触れて唇を離した夏川は、秋山を見下ろし、ぶはっと噴き出した。 「ハハハハ。なんだその顔。お前ゆでダコみたいだぞ?」

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