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突然で身勝手な来訪者1
ー智紀sideー
「だ、誰だろうなあ」
俺は冷たい空気を一掃してくれそうなインターフォンに大感謝した。
ライさんと道元坂の空気があまりにも冷たくて、重苦しくて、息が詰まりそうだったんだ。
パタパタとスリッパを鳴らしながら、俺は玄関へと走る。
「智紀、勝手に出るなっ」
道元坂の大きな声が背後でした。
だけど俺は居間にある受話器に戻る気はなくて…玄関のドアのロックを外すと、ドアノブに手をかけた。ガチャっと勝手にドアが開くと、俺の額に黒光する拳銃を突きつけられた。
「トモキって、あんたか?」
俺の前に立っている少年の漆黒の綺麗な髪がさらりと揺れた。髪と同じ漆黒の瞳が、俺を捉えて、にやりと笑った。
誰かに似てる。恐怖で身体の芯が震えながらも、俺はそう思った。
「蛍(けい)、銃をおろせ」
背後から道元坂の声がしたと思うと、僕の横からにょきっとライさんの腕が出てくる。
ライさんの手には、やっぱり銃が握られていた。
「トモキってどっち?」
少年の目が、俺とライさんの両方を行き来する。
「トモキはここにいない。別荘にいる」
道元坂が、俺とライさんの前に出ると少年の手にある拳銃を取り上げた。
え? 何、堂々と嘘をついてんだよ
「嘘だ。この二人のどっちかだ。一緒に住んでいると聞いた」
「梓が適当に言っただけだろ。真実味は低い。現に、私がいないと言ってるんだから、居ないんだ」
道元坂が少年から取り上げた拳銃をライさんに手渡した。ライさんは拳銃を受け取ると、警戒態勢を崩した。
梓さんって…もしかして道元坂の元奥さん?
「じゃあ、このいかにも素人な鈍臭い男は何なんだよ」
むっ…素人な鈍臭い男で悪かったなっ。俺はふんっと、横を向いた。
「家政婦だ。家のことを任せている。路上で拾った」
ろ…路上で拾ったとは…酷い言い方だなあ。でも反論はしないほうがいいんだろうなあ。なんか俺を狙っているみたいだし。
「ちぇ、居ないのかよ。あーあ、母さんを見返してやる良いチャンスだと思ったのに」
少年は両手を頭のうしろにやると、勝手に靴を脱いで家にあがった。
「ちょ…おいっ」
俺は少年の肩を押した。
「なんだよ、家政婦」
少年の漆黒の眼球が、俺を睨んだ。
「か、かせっ…て、あのなあ、何、勝手に人んちにあがってんだよ」
「ずいぶんと言葉遣いの悪りぃ家政婦だなあ。教育がなってねえんじゃねえの?」
「な…お前こそガキのくせに…」
俺の腕を振り払った少年が、俺の首を掴むと壁に背中を叩きつけられた。
「くっ…」
苦しいっ。なんだよ、こいつ。俺より年下のくせに、喧嘩っ早いんだよ。
「家政婦のくせに、俺に安易に触ってじゃねえよ。死にてぇのかよ」
「蛍っ! 居候したいのなら、私のルールに従え」
「居候じゃねえ! ここの住人になるんだよ。家政婦ごときに一々、文句を言われる筋合いはねえんだよ」
「じゃあ、僕もここの住人になろっと」
ライさんが明るい声で言いながら、蛍と呼ばれた少年の手首を掴んで、ひょいっと背中に返した。
「いっ…ててっ」
蛍が、顔を歪めた。俺から離れた蛍が、今度はライさんに壁に顔を押し付けられた。
「僕の大事な人の首を絞めるなんて、ボクちゃんは怖いもの知らずだねえ。地獄を見たくなかったら、大人しくしてよね。じゃないと…」
ライさんが一呼吸を置き、ガツンと蛍の額を壁に叩きつける。「殺すよ」とライさんとは思えないほどの低い声で、脅した。
蛍が、ライさんのとてつもない殺気を感じたのか…ぶるっと身震いをして、コクンと頷いた。
「わかればよろしい」
ライさんがにこっと笑って、蛍から離れた。
俺はじろっと道元坂の顔を見やった。道元坂がクイッと顎を動かして、寝室に来るように俺に合図した。
んだよ…顎かよ。クイッて動かしやがって、お前は鳩か!
むっと苛つきながら俺は、「着替えてくる」という道元坂の背中をついて歩いた。
「じゃあ、僕と蛍君は居間で親交を深めていましょうか」
「ちょ…え? 俺はこいつに話が…」
「僕とお話したいよねえ、蛍君っ?」
蛍が、ライさんにぐいっと腕を引っ張られると、ガツンと壁に顔面をぶつけていた。
「あらあら、そんなに僕とお話がしたいの? 嬉しいなあ。僕も、若い男の子とじっくりと話ができるなんて、嬉しいですよ」
「鼻…鼻血が、出たじゃねえかよっ!」
「血の気が多い証拠だね。少しくらい垂れ流しておくといいですよ」
ライさんって…かなり強引な人なんだなあ。
俺は寝室のドアを閉めながら、居間へと引っ張られていく蛍の背中を見送った。
ぱたんとドアを閉めると、すぐに道元坂に後ろから抱きつかれた。
「ちょ…おいっ。何、すんだよっ」
「勝手に出るなと言っただろ!」
「仕方ないだろ。道元坂とライさんの雰囲気が悪くて、居心地が悪かったんだから」
「はあ」と深い息を吐きだす道元坂に、俺はびっくりした。
「蛍だから良かったが。もしあそこに立っているのが梓の手の者だったら、お前は今頃、息の根が止まっていたんだぞ」
道元坂の手が俺の耳たぶを弄る。俺の存在を改めてじっくりと見た道元坂が、深いキスをした。舌を伝って、道元坂の熱を感じた。
「蛍ってヤツだって、梓さん側の人間なんだろ? そんなヤツを家にあげていいのかよ」
「蛍に人は殺せない。血の気の多いふりをして、強がっているだけの13歳のガキだ」
「知り合いなのか?」
「息子だ」
「え?」
俺は頭の中が、真っ白になった。
でも…そうだよな。子どもが一人、二人いても変じゃねえよな。むしろ居ないほうがおかしい…って。
マジで。夫婦だったんだし、梓さんと。
7年間も一緒に暮らしてて、何もないほうがおかしいわけだし。道元坂のエロ魔人っぷりを俺は知ってるし…こいつとセックスとしてて、女性が妊娠しないはずはないよ、な。
なんか…リアルに息子とか、見ちゃうとキツいかもっ。俺は、またキスをしようとしてくる道元坂の口を避けた。
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