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突然で身勝手な訪問者2
「ごめっ…わかってるんだけど。そういう気分になれない」
俺は道元坂から離れた。
道元坂は、俺の気持ちをくみ取ってくれたのか。
近づかずに、ベッドに腰をおろした。
「腹の傷は…蛍にやられた」
「え? だって人は殺せないって言ったばっかだよな?」
「ああ。私を殺せなかったのが、良い例だ」
「は? なんだよ、それ」
道元坂が、寂しそうに微笑むとベッドの脇にある棚に手を伸ばした。
煙草を手に取ると、窓を少し開けて、吹かし始めた。
「梓の組織では、暗黙の了解…なんだが、な。子は親を殺すもんなんだ。それが一人前になったと認められる第一条件だ。梓の子だからな。他人の子より先に、私を殺させるように仕向けると思っていたが、13歳で送り込んでくるとは」
「意味…わかんねえんだけど」
俺は眉間に力を入れて、道元坂の背中を見つめた。
「私のときは18歳だった。蛍はそれよりも5歳も若い13歳で、やらなければいけないとは、な。あの子にかけられている重圧はきっと酷いのだろうな」
なんだか、道元坂の背中が小さく見えた。
それって。道元坂も父親を殺したってことかよ。18歳のときに、育ててくれた親を殺したのかよ。
俺はぎゅっと拳を握ると、下唇を噛み締めた。どんだけ…道元坂は、苦しい思いをして生きてきてんだよ。
父親を殺して…今度は、息子に殺されそうになっているなんて。あり得ねえだろ。
「蛍ってヤツは、道元坂を殺しに来たのか?」
「…だろうな」
「怖く、ないのか?」
「『怖い』とは何だ?」
「ごめん。俺、道元坂に死んでもらいたくない」
俺はベッドに乗ると、道元坂の背中に頬をつけた。道元坂の腹に手を回すと、傷口を圧迫しない程度に抱きついた。
「俺、道元坂と離れたくない」
「死ぬつもりは毛頭ない。ライがどうにかするだろ」
「え? ライさんが?」
道元坂は煙草の火を消すと、俺の手を握りしめた。
「あんな堂々と宣戦布告をされて、黙っているヤツじゃない」
「道元坂は…ライさんに大切に思われているんだな」
「違うだろ」
「は?」と俺は首を傾げた。何が違うんだ?
「蛍は智紀に拳銃を突きつけた。それをライは怒っている。殺さなかったのが、奇跡だな」
「え? なんで?」
「ライも言っていただろ? 『僕の大事な人』だと。ライは私を裏切ることはあっても、決して智紀を裏切らない。そういうヤツだ」
「だから、なんでだよ。ライさんは、道元坂の部下…なんだろ?」
「あんな自由奔放で、我儘な部下は初めてだ」
道元坂がくくっと喉の奥を鳴らして笑った。
道元坂、なんだか楽しそうだ…。ずるいな、なんかライさんと道元坂って心が繋がってる感じがするよ。
俺と道元坂よりも、ライさんと道元坂のほうが強い絆があるみたいだ。
「なあ…抱いてくれよ。俺、道元坂に抱かれたい…あ、でも、やっぱ…駄目だよな。息子が来てるんだし」
「抱いていいのなら、私は抱くが」
「だって…ほら! 俺は別荘にいるってことになってるし」
「心配ないよー。お子ちゃまはもうオネンネの時間だから、僕が寝かせてあげたよ」
寝室のドアが少し開くと、ライさんがにっこり笑顔をのぞかせた。
「また…盗聴か?」
「そうやって僕の株を落とさないでくれるかな? 僕は僕なりに、智紀の護衛をしているんだからね…て、ことでお子ちゃまは教育上、性生活から切り離したいので、僕の部屋に連れて行くから」
「ありがたい申し出だ。今日、初めてライの親切に触れた気がする」
「嫌だなぁ。まるで僕がいつも不親切みたいな言い方をしないで欲しいよ。僕はいつだって、親切だし、智紀の味方です。智紀の一番を守ってきてるのに」
「智紀の一番がイコール私の一番とは限らないんだが?」
「そんなこと知らないよ。僕の知ったこっちゃない!」
バタンとドアが閉まると、ズルズルと何かを引き摺る音がした。たぶん、ライさんが蛍を引き摺っているのだろうけど。
いったい、この短時間で…ライさんはどうやって道元坂の息子を眠らせたのだろうか?
「智紀、おいで」
道元坂の声に、俺は道元坂の胸に飛び込んだ。
「…くっ」という苦しいうめき声に、俺は怪我しているのを思い出した。
「あ…ちょ、先に手当てだ!」
「手当の前に、セックスだよ。智紀…」
俺は道元坂の力には勝てずに、ベッドに押し倒された。
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