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ジュニアのお守り1
―ライside―
「…たく。13歳のガキのくせに、重いったらありゃしない!」
僕は部屋に運び入れると、恵ジュニアを玄関に放置したまま、己の寝室に入った。
智紀のように愛情があればまた違ってくるんだろうけど。あんなガキ、玄関で寝かせておけばいい。僕の家に入れること自体、嫌なのに。
寝室のベッドに置いてある写真立てに目をやった。智紀と一緒に撮った写真を眺めると、僕は自然と顔が綻んだ。
どうして、智紀はこんなに可愛いのだろうか。16歳にもなった大きな子だというのに、可愛くて仕方がない。
それに比べ…13歳なのに道元坂の血が入ってると思っただけで小憎たらしいよ。僕は『ふん』と鼻を鳴らすと、スーツを脱ぎ捨てた。
あー、面倒だ。
僕の神聖なくつろぎの場所に、ズカズカと遠慮なしに入り込んできて。今すぐにでも銃で殺してしまいたい人間がいると思うと、苛々してくる。
「親父ぃ」と玄関から、聞こえてくるとさらに僕の血圧があがった。
寝言まで言うのか、あのガキは。起きたら、拳銃をこめかみに突き付けて、脅してやる。
「んっ…あっ、きつっ」
頭上から聞こえてくる厭らしい声と、身体に走る痛みで僕は勢いよく開眼した。
「な…何をしてるっ!」
ベッドに入りこんでいる影を睨むと、僕は上にいる人間から離れようとした…が、繋がっている身体同士、そう簡単には突き飛ばせなかった。
ギシ、ギシッとベッドが軋む。
「なっ…あっ、いっ、いた…」
何もケアされずに欲望の塊を突っ込まれた僕は、痛みで腰を浮かし、背中を逸らした。
「こんの…くそ、が…ああ、きぃ」
僕は枕の下にある拳銃を手の中に収めると、痛みに悶えながら、ガキの額にあてた。
「やばっ、イキそう」
「っいあっ!」
恵ジュニアは、僕に拳銃を突きつけられているのにも気にせずに、精液を僕の腹に飛ばした。生温かい液体が、僕のシャツを汚す。淫らに脱がされているパジャマのズボンにも、汚らわしい液体が飛んでいた。
最低だ。こんなガキに、バックを獲られるなんて。
「うーん、キツくてよくわかんねえや。中に出せなかったし」
ジュニアが不満そうな声をあげると、バタンとベッドに横になった。
僕は、怒りで鼻をヒクヒクさせると、足でジュニアを蹴り落とした。ドタンと盛大な音とともに、ジュニアが「いてっ」と床に落ちる。
手に持っている拳銃を構えると、僕は迷わず、ジュニアの足を撃ち抜いた。
「ぁあっ、何すんだよ! 痛いじゃないか」
「痛いのはこっちだ。馬鹿野郎。勝手に寝室に入るな。勝手に人の尻を掘ってんじゃねえよ、くそ餓鬼がっ」
「え?」
ドクドクと足から血を流しながら、ジュニアがひどく驚いた顔をした。
「綺麗な顔してんのに。言葉遣い悪りぃんだな、あんた」
僕は喉を鳴らすと、部屋の電気を付けた。
「何の知識もないくせに、男を犯すからだ」
「あんたは、あんのかよ」
「それなりに」
「なあっ、だったら俺に教えてくれよ」
ベッドの上に乗ってきたジュニアが僕の肩をがしっと掴んできた。
「汚れている手で触るな! たく、血で僕のベッドを汚すな」
僕はまたジュニアを床に、蹴り落とした。
「あんたが、撃つからだろう?」
「僕の神聖な領域から出ろ。ほら、早く」
もう一度、銃を構えた僕を見て、ジュニアが慌てて廊下に飛び出した。
「なあ…マジで。教えてくれよ」
「男が好きなのか?」
「全然」
「なら知る必要なんてない」
「でもオヤジは、トモキっつう男とヤッてんだろ? 男とヤッて気持ち良いのかよ?」
「人の身体を精液で汚しておいて、なんて質問してるんだ」
「あれは…あんたの顔が色っぽかったから」
「13のガキが色気づくな」
「俺はもう大人だ。親父を殺して、トモキってヤツも殺して…俺は…」
「くそ餓鬼が。自分の親父を殺す前に、僕が殺してやる」
「じゃあ…あんたが俺を殺す前に…教えてくれよ。男同士でも気持ち良い方法を…」
「知らずに死ね」
僕はベッドから降りると、バタンと勢いよく寝室のドアを閉めた。
何なんだ、あのガキは!
何を考えている?
あ、みそ汁の匂い。智紀も毎朝、僕のためにみそ汁を作ってくれてたなあ。具沢山で、僕の健康を気遣って…って。
「あ?」と僕は片目を持ち上げた。
なんでこの家で、みそ汁の匂いがするんだ? 料理なんてもんは僕はしないし、智紀の手料理は恵の部屋に行かないと食べられないのに。
僕はむくっと上半身を起こすと、色素の薄い髪を掻きあげた。
「なあ…朝飯、作ったんだけど」
ドアのノック音がすると、ジュニアが恐る恐る声をかけてきた。
「いらないよ。僕は恵の雇った家政婦の料理しか食べない主義なんだ」
「…かった」
片足を摺りながら歩く音が、居間へと離れて行った。
僕はスーツに着替えてから、居間に行くと昨日と同じ格好のままのジュニアが椅子に座っていた。
あ…そっか。荷物は恵の家に置きっぱか。
焼き魚に、みそ汁…プラス、コンビニのおにぎりが食卓に並んでいる。ジュニアは少しだけ箸をつけただけで、食べるのを終わりにしたようだ。
「もう…いらないの? 育ちさがりなのに」
「食欲がない」
「ふうん。じゃ、餓死っていう選択もあるわけだ」
「ん、たぶん」
なんだ? やけに元気がないじゃないか。昨日の勢いはどうしたんだ? 寝込みを襲ってくるほどの元気があったくせに。
「なあ…殺すなら、早く殺してくんない?」
「は?」
何を言い出すかと思ったら……。
「親父にはもうきっと…バレてんだろうけど。俺、こういうの好きじゃない」
「何だって?」
僕は、すっかり身体を丸めて小さくなっている13歳の背中を見つめた。
「母さんがヤレっていうから、ここまで来たけど。親父を殺したら、一人前になれるっていう考え方が好きじゃない。誰かを押しのけてまで上にいきたいとは思わない」
随分と、まあ…消極的な坊やだ。本当に恵と梓の子供なのだろうか?
「…で? どうしたいんですか?」
「わかんない。どっちに転んでも殺されるんなら、俺、死ぬ前に気持ち良いセックスをしてみたい」
「は?」
「なあ…いいだろ? 教えてよ、気持ち良いセックスってやつを」
席を立ったジュニアに、僕は勢いよく押し倒された。
そこは…積極的なんですか? な…何なんですか、こいつ。エッチしか頭にないのか?
……て、なんで僕がこいつの犠牲にならなくちゃいけないんだよ!
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