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ジュニアの本性
ーライsideー
「このペテン師親子め」
僕は手首をロープで縛られて、天井からつるされていた。
足が宙に浮き、床につきそうでつかないもどかしい距離に苛つく。
「なあ、良い加減に話せよ。智紀はどこだ?」
「知らないよ」
「知ってるはずだ。あんたが智紀のボディガードで、昨日、家政婦だと嘘をついて俺から突き放したんだ。俺があんたの家で、すっかり伸びている間に、どこかに隠したんだろ?」
「知らないって言ってるだろ。僕は何も知らない。気弱なガキの演技をして、恵を騙せると思ったのが間違いなんだよ」
僕の言葉に、ジュニアが『ちっ』と舌打ちをした。
「蛍、駄目よ。吊るしあげたぐらいで、この男が口を割るとは思えないわ。随分と恵に仕込まれている身体みたいだし」
ジュニアの後ろで、嬉しそうな顔をしている梓がねちっこい口を開く。火傷の残る頬を、長い髪で隠していた。
ジュニアの顔が急に不機嫌になると、僕を睨みあげた。
「仕込まれてる?」
「そうよね? 身に覚えがあるでしょ?」
「全くありませんね。僕は誰かに媚びるのは大嫌いですから」
「あら、意外だわ。身寄りのいない男同士、慣れ合っているのかと思ってたのに。力のある男に抱かれるのは気持ちが良いんじゃないの? 若い男に寝盗られてしまったみたいだけど? どう? 恵にひと泡吹かせてあげたいと思わない?」
「だから言っているでしょ? 僕は媚びるのが嫌いなんだ。ひと泡吹かせたいと思ったら、自力でやる。誰の手も借りない」
梓の顔が、ぐにゅっと変形する。怒りに満ちた顔になると、横に立っているスカーフを首に巻いたスーツの男に手を出した。
スカーフを巻いた男がちらっと僕を見る。僕はくすっと鼻を鳴らして笑ってやる。
「侑、何してるの! 火かき棒を早く」
侑と呼ばれたスカーフの男が暖炉から火かき棒を取り出した。梓の手に渡った火かき棒が、僕の背中にくっついた。
「ああっ!」
皮膚の焼ける痛みに、僕はのけ反る。
「どう? 協力したい気持ちになった?」
「これくらい…。気持ちよくて声が出てしまっただけだ」
「やせ我慢がどれくらい続くかしら? いいわ、付き合ってあげる。久々に楽しい玩具ができたわね」
梓がにっこりと嬉しそうに笑う。
火にあぶられた火かき棒がまた僕の背中につくと、痛みで大声をあげた。
「良い加減に飽きてきたわ。貴方、詰まらない」
三日坊主かよ。
僕は、にっこりと笑うと火傷と打撲でぼろぼろの身体に視線を落とした。
梓がヒールを鳴らして速足で部屋を出ていく。それに伴って、梓の信者たちも部屋を後にした。
一番最後に出たのは、スカーフ男の侑だった。扉の前で足を一度止めると、僕に振り返る。サングラスのせいで顔の表情がわからないけど、何か言いたそうにしていたのはわかった。
結局何も言わずに、部屋を出て行ったけど。
残ったのは、僕とジュニアだけ。吊るされているロープをジュニアに解かれると、僕はその場に倒れた。
今度はジュニアの番か。梓の拷問が終わると、ジュニアに抱かれる。
三日目にもなれば、抵抗する気も文句を言う気もなく、あっさりと足が開けるもんだ。…というか、もう何でも好きにしろって気になってくるから、人間とはすばらしい順応力があるもんだ。
「なあ、いい加減に吐いちまえよ。親父と智紀の居場所」
「知らないのに、どう吐けって言うのか」
まあ、目星はついてるけど。僕が口を割るはずないじゃないか。今頃、恵はここぞとばかりに智紀と楽しんでいるのだろうなあ。
戻ったら、これ以上ないくらい智紀との時間を減らしてやらないと、割に合わない。
「そんなに親父を守りたいのかよ。若い男としけこんでるあんなヤツ…あんたを助けにも来ないで」
僕は『ぷっ』と噴き出すと、肩を揺らして笑った。
「勘違いも甚だしいね。まあ、そう思わせるために恵もペテンにかけていたんだろうけど。僕は別に、助けを待っているわけじゃない。助けが欲しいとも思ってない。この場合、助けにきたほうが馬鹿だ」
「は?」
「ここにいるのは、僕の意思だ。恵もそれをわかっているから、何もしてこない。まあ、そもそも…恵が僕を助ける理由も義理も価値もないからね。動くはずないですし、期待なんて鼻っからしてない」
全く理解をしていないジュニアが、眉間に皺を寄せた。僕の手首についた痣に、ジュニアがキスをする。
「あんたは親父が来るのを待ってる」
「待ってないと言ったら、待ってない。全く頭の堅い坊やだね。証拠を見せてあげるよ。僕も梓と一緒、この生活にも飽きたからね。ここから出て行かせてもらうよ」
「監禁されている身で、何を言っているんだ?」
「監禁ねえ。僕に監禁する価値はないよ。何の情報も持ってないし、監禁することで得られるべき利益なんてないんだから。無意味な行為だよ」
「親父がそんなに好きなのか?」
「はあ…会話のキャッチボールにもならないね。セックスがしたいならさっさとしてくれる? 僕はもう一秒たりともここには居たくないんだから」
むすっとした表情になったジュニアが、欲望に任せて僕の中をかきまわした。
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