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兄の面影

「とりあえずさあ…親父んとこに戻れよ。あんたがいると、うざい」 「わかったよ」  俺は蛍のベッドを下りた。 「なあ、あんたにとってのライって?」  部屋を出て行こうとする俺に、蛍が質問を投げた。 「死んだ兄貴の生き写し。だから余計…死んだって思いたくないんだ」  俺は蛍に振り返って口を開いた。 「死んだ?」 「ああ。道元坂の秘書だったんだ。同僚に殺されて…それで、俺…道元坂に世話になったんだ」 「ふうん。あんたの兄貴とライってヤツ、似てたんだ」 「ん。すごく似てた。いつの間にか、ライさんを兄貴だって思ってたんだ。じゃ、おやすみ」 「ああ。今夜はゆっくりと眠れて嬉しいよ。あ、でも声を控えろよ。いくら広い家でも聞こえてきちゃ、たまんえねや」 「ちょ…ヤラないよ!」 「親父が大人しく寝るタマかよ」 「う、うるさいよ!」  蛍がクスクスと笑う。やっぱ笑うと、こいつ可愛いや。俺は、蛍に背を向けると部屋を後にした。  俺は道元坂の寝室のドアを開けると、道元坂は部屋にはいなかった。  窓を開けて、ベランダに立っている。黒のガウンを着た道元坂が、ベランダの手すりに手を乗せて、煙草をふかしていた。  空を見上げ、星を眺めている道元坂の後ろ姿はすごく小さく見えた。 「なあ、道元坂にとってライさんはどんな存在だったんだ?」  ベランダに顔を出して、俺が質問をする。 「もっとも扱いづらい部下だな」  道元坂が振り返りもせずに、俺の質問に答えた。 「後悔してる?」 「何を?」 「あそこに置いてきたこと。本当は連れて行きたかったか?」 「あれが最善の策だ」 「嘘だろ? 本心を隠してる。あれが最善だったと思いたいだけなんだろ?」 「『思いたい』だけ、か」  道元坂が携帯用の灰皿ケースに煙草を入れると、俺のほうに振り返った。手すりに背をつけた道元坂が、ぎゅっと唇を結んだ。 「もしあれがライさんじゃなくて、俺だったら? 置いて行った?」  道元坂がくすっと笑うと、空を仰いだ。 「置いていくはずがないだろ」  俺は窓枠を触りながら、ベランダに出た。ぶかぶかのサンダルを履き、道元坂の隣に立って外を眺めた。  涼しい風が頬を撫でる。 「俺が一人で平気だって言ったら? 置いていく?」 「無理だ。置いていけない」  道元坂が俺の肩を抱き寄せると、ふわっと煙草の香りがした。 「ライさんだって同じだろ」 「違う。根本的に違うだろ。智紀は私の大切な人だ。恋人だろ。だが、ライは違う。私の部下だ。しかも自由奔放で、命令を無視することもある。ライは一人でも危機的状況を乗り越えられる」 「じゃあ、後悔してないのか?」 「最善の策だったと言っているだろ。ライなら平気だ」 「なんでそう思える? あんな大怪我だったのに」 「なんとなく、だ。ライなら大丈夫だ。生きてる」  道元坂が、ふっと口元を緩めた。 「大丈夫じゃないのは、私のここなんだが」  俺の手を握った道元坂が、すっかり元気になっている熱量を掴ませた。 「な…てか、なんで?」 「智紀が部屋に入ってきたときから…」 「でかくなってたのかよ!」 「ああ」 「『ああ』じゃねえっつうの! なんで? は? どうして?」 「もう部屋には来てくれないと思ってた。ライのことで飽きられたと…な。だから、部屋に戻ってきてくれたのが、嬉しかった」 「それだけで?」 「ああ。それだけだ。一度、出て行ってたものは戻ってくる経験などなかったから…私にはどう接していいのかわからない」 「はあ…」  俺はコクンと頷くと、膝をついて道元坂のパンツを引き下ろした。 「智紀?」 「黙ってろよ。何も言うなよ。俺だって恥ずかしいんだから」  俺は大きくなっている道元坂を口に入れた。「んっ」と道元坂が小さい声をあげる。  俺はちらっと道元坂の表情を見る。瞼を閉じて、眉間に皺を寄せている。  苦しそうな表情に似ているが、なんか色っぽい。俺の口の中で熱くなっていくブツと、表情を見ただけで、俺のパンツがきつくなった。

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