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白い世界

ーライsideー 「あっ、あ、あ、んあっ」  広い室内に、声が響く。 「ああぁ、駄目…そこは、んんっ、あっ」  ベッドの右手でシーツを掴み、左手で枕を抱きしめた。  脳が蕩けそうだ。身体が沸騰してる。バックで挿入され、奥まで何度も突かれる。  早さと強弱で、僕は痙攣し、呆気なくシーツを汚した。白い液体が、僕の太腿を垂れていく。侑も僕と一緒に頂点に達したのだろう。  ベッドの脇に置いてるティッシュに手を伸ばした侑が、横になった僕の足を広げると、太腿を綺麗に拭いてくれた。  僕の身体を綺麗にしてから、侑が自分のをティッシュで軽く拭く。トントンと、侑に肩を叩かれて、僕は振り返った。 『タオル、持ってくる』  僕が頷くと、侑はボクサーパンツとシャツを被って、部屋を出て行った。少しばかりウトウトとしたんだと思う。  気がつくと、身体がすっきりさっぱりしてて…コーヒーの豆の匂いが鼻を擽った。僕が身体を起こすと、侑が白いマグカップを鼻先に出してくれる。  白い湯気が揺れるのを見ながら、僕はマグカップを受け取った。  美味しい。侑の入れるコーヒーは美味い。いつもそうだったな。  エッチの後は、温かいコーヒーを飲んでまったり。昔と違うのは、エッチの後に金を貰わないってことぐらいか?  僕は座るとずずっとコーヒーを啜った 「侑、ありがとう」  僕は小さな声で礼を言う。  侑は僕の口が動いたのに、気付いたのだろう。マグカップを棚の上に置くと、僕の眼前で人差し指を揺らした。 『何か言った?』 「ありがとうって言ったんだ。侑のいれたコーヒーは好きだから」 『そう。それなら良かった。いれた甲斐があった』  昔、手話で話す侑に、僕は必至で手話を覚えた。あの頃は侑とスムーズに話すのが、夢だった。  夢が叶った頃には、僕たちの関係は終わってたけど。侑が僕の飲みかけのマグカップを手に取ると、ベッドの脇の棚に置いた。  侑の唇が近づき、キスをする。コーヒーの風味が口の中に広がった。  甘い時間はそう長くは続かない。確認し合わなくても、お互いにわかっている。  だからこそ…。今は、熱い欲求にも応えられる。僕たち二人に明るい未来はない。いつまでも、侑の中で悶えていられない。 「今度は僕が上に乗っていい?」  侑が枕をクッションにして座ると、にっこりと微笑んで両手を広げてくれる。僕はその上に乗りかかると、侑の首に抱きついた。 「好きだったよ、侑」  小さな声で僕が呟くと、侑がそれに応えるように、ちゅっと頬にキスをした。  侑、会えて良かった。きちんと告白ができて良かったよ、侑。  ベッドで侑が静かに眠っている。規則正しい寝息を耳にして、寂しさが増す。  もう終わりだよ、侑。僕は戻る。ここには居られない。帰るべき場所に帰らないと…いけないんだ。  僕はベッドから出ると、椅子の上に置いてある僕の私物を見て、くすっと笑みを漏らした。  昔から、そうだったね。侑は気がきくんだ。  僕の気持ちをわかってて、イキなことをするんだもんな。  椅子の上にある白いワイシャツに腕を通す。ジーパンを穿き、僕の拳銃を腰に突き刺した。僕は侑の枕もとに立った。 「ねえ、侑。寝た振りしないでよ。起きてるんでしょ?」  僕の言葉に、侑がゆっくりと瞼を持ち上げて微笑んだ。思わず溢れ出てくる涙を、侑の指先が拭ってくれる。 「侑、一緒に…」  侑が首を横に振る。 『全ては梓様のため…。最後に莱耶に会えて良かったよ』  侑が身体を起こすと、僕の唇にキスをした。 『莱耶を愛せて良かった』 「侑…」  僕はまた口を開こうとすると、侑が枕の下に潜ませていた拳銃を構えた。 『さあ、行くんだ。もう、さよならだよ、莱耶』 「侑、ありがとう。僕も侑に会えて嬉しかった」  僕は侑に背を向けると部屋を後にした。  ぱたんとドアが閉まると同時に、銃声がした。僕はぎゅっと唇を噛み締めると、ドアを開けて室内に戻る。 「侑っ! 侑、やっぱり…」  遅かった。侑はもう息絶えて、ベッドに倒れ込んでいた。  こめかみから侑の血が流れ、白いベッドを赤く染めていく。  侑、もう少し一緒に居たかったって言ったらそれは僕の我儘になるのかな? ごめんね。  できないこととわかっていても、僕は侑との未来を見たかったよ。でも侑がいると、侑に守られる自分が当たり前になってしまって…誰かを守るっていう気持ちが失せてしまいそうになるよ。  侑、自ら命を絶たなくて良かったんだ。もっと人生を謳歌してからでも…って、侑の全ては梓が握ってるんだったけ。  梓に見限られた時が、死ぬ時だって言ってた。  侑…好きだよ。忘れないから。  安らかに眠って。僕は瞼を閉じた侑の額にキスを落とすと、歩き出した。  戻ろう。智紀のところへ。智紀を守る。それが僕の今の夢だよ。  ライとして、智紀の傍にいるんだ。

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