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梓との最終決戦
ーライsideー
「智紀は?」
僕が別荘に戻り、恵の姿を見つけると声をかけた
「シークレットルームだ。今から逃げ出したほうが、危ない。梓がここまで来ているんじゃ、ヘリポートも船着き場も梓の部下が押さえているだろうからな」
「そうですね。強襲ではなく少しでも早く情報を得られて良かったのが幸い…とでも言うんでしょうか?」
「ライ、蛍は?」
恵の顔が険しくなった
僕一人だったのが、気に入らなかったのかもしれない
「蛍が、時間稼ぎをしてくれています」
「蛍が?」
「ええ。時間を稼ぐから、親父に知らせろ、と言っていました」
僕の言葉を聞いて、『ちっ』と恵が舌打ちをした
「何ですか?」
「蛍は…たぶんだが。こういうのは好きじゃないはずだ。料理が好きで…」
「よくわかっているじゃない。たいして一緒に住んでなかった割には…息子を理解しているのね」
恵の言葉をさえぎって、梓の声が飛び込んできた
梓の横にいる組織の人間が、ぐったりとしている蛍の首根っこを掴んでずるずると引き摺ってきた
顔がめためたに殴られており、鼻血やら切り傷の血やらでぐちゃぐちゃになっている
「ま、わたくしに楯突いただけ、少しは進歩したと褒めてあげたいけど…所詮クズだわ。何の役にも立たない」
「蛍のコーヒーはとても美味しかった。私はまた蛍の淹れたコーヒーを飲みたい」
「あら、残念。それは無理だわ。死んではいないけど…時間の問題ね」
「梓、私はもう…我が子を失いたくない」
恵が一段と低い声を出した
「もう」という言葉に僕は引っ掛かったけど、苦しそうにしている恵を見ると、何も聞けなかった
「わたくしも同じ気持ちよ。だけど、わたくしの役に立たない子などいらないわ」
「…そりゃ、良かった」
息も絶え絶えに聞こえてくると、右手に服の下からきらりと光るナイフを出して、蛍が梓の喉を掻き切った
梓の声が出る間もなく、ぱっくりと首の皮膚が開き赤い血が噴き出した
「蛍っ!」
恵が柄にもなく、叫び声をあげる
梓の両脇を固めていたボディガードの二人が一斉に銃を構えた
僕と恵が、すでに構えていた銃で蛍の命を狙う人間を撃ち合った
梓が喉から噴き出る血を、押さえると信じられないと言わんばかりに蛍の顔を睨んだ
「これで俺も一人前だろ? 母さん。子は親を殺して、組織の地位を継ぐんだ」
「け…い」
「母さんにとって俺は役立たずで、クズで何もできない人間だけど。親父は、俺の手料理を食べて…食べてみたいって」
蛍が鼻水を啜ると、涙をポロリと流した
「言ってくれたんだ。俺の淹れたコーヒーを美味しいって言ってくれた…初めて認めてもらった気がしたよ」
蛍が、袖で涙を拭く
「だから…俺は、俺は…」
梓が震える腕をあげて、拳銃を蛍の額にあてた
殺す気だ
息子を…
なんて女だっ
僕は、前に飛び出そうとする
が、その前に恵が蛍の前に割って入り、梓の脳天を撃ち抜いた
梓は拳銃をぽろりと手から離しながら床に倒れ込んだ
ガクンと蛍の膝の力が抜けると、恵が抱きしめた
「蛍、お前は何もしていない。お前の母を殺したのは私だ。お前は何もしない」
気を失いかけている蛍に向かって、恵が必死に呪文のように言い聞かせていた
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