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好きじゃないけど、軽い独占欲1

ーライsideー 僕は大きな花束に、分厚い料理本を持って病院の廊下を歩く なんで、僕が… 思わず悪態をつきたくなる気持ちをぐっと堪えながら、恵に頼まれた仕事をこなす 蛍への見舞いだ 面倒ったらありゃしない どうして僕なんだ? なんで僕を名指しする 恵が行かないなら、僕じゃない部下でいいじゃないか 『蛍は一人で寂しがっているかもしれない。顔見知りが行ったほうが、ほっとするだろ?』 恵の言葉を思い出す ホントに、もう…僕は面倒くさい仕事をやらないのを知ってるのに 恵ジュニアの病室の前まで行くと、僕は一度足を止めた 恵の用意した個室からは、楽しそうに談笑している声を聞こえてくる ほら、僕が行く必要なんてないんだ きちんとここで楽しく過ごしているじゃないか 僕は廊下に花束と本を置いて帰ってしまおうかと、ふと考えてしまう 『蛍君って、ほんとに13歳? やだ、もう…お姉さん、惚れちゃいそう』 は? お姉さん? 惚れる? 僕は軽く眉間に皺を寄せた 13歳のくそ餓鬼に変なことを教えようとしているのではないか? なんて不埒な想像をしてしまう 女の甘ったるい声が、あからさまに蛍を誘惑しているように感じてしまうのは、ドア越しだからか? それとも僕が、女が嫌いだからか? そのどっちでも構わないが、ジュニアに変な知識を吹き込まれても困る いや、僕自身は困らないが…恵が悲しむだろう 別に…ジュニアがどんなことをして、何を得ようと僕には全く関係ないけど 『13歳です。俺、同級生より身長もあるしガタイもいいから…年上に見られがちだけど…でもほんの一年前まではランドセルを背負ってたんですよ』 『やだ、もう蛍君ったらぁ』 何がおかしいんだ? と思わず、突っ込みたくなるような楽しそうな女の笑い声が廊下にまで響いてきた 『ねえ、蛍君。次の回診まで時間があるしぃ…ちょっとぉ…しない?』 な、に、を、で、す? 僕が心の中で強く質問を投げた 室内にいる二人には、わからないでしょうけどね 僕は『ちっ』と舌打ちをすると、ぎゅっと大きな花束を握り締めた 全く、こんなことで…何で僕が苛々しなくちゃいけないんです? さっさと恵からの仕事を終えて、智紀と一緒に昼食にしたいのに 『ちゅ、ちゅく』と厭らしい音が聞こえてくると同時に、僕はガラリと病室のドアをスライドさせた ピンクの看護衣を着た女性が、ベッドに片膝を乗せて蛍の首筋にキスを落としている最中だった 蛍が、窓からドアのほうに視線をゆっくりと動かして、びっくりした表情になった 「ら…ライさん?」 看護師がぱっと離れると、わざとらしく喉を流しながら乱れた髪を整え始めた 「ま…また腕の調子を見に来るわね」と看護師が、声を上ずらせながらパタパタと小走りで病室を飛び出して行った 「お見舞いに来ました。本来なら、恵が来る予定だったのですが、仕事の都合で行けないから…と荷物だけ預かってきましたので」 僕は淡々と言葉を付けると、ジュニアの顔面に花束を叩きつけ、分厚い料理本を太腿の上に乱暴に投げた まるで素直に気持ちをぶつけられる看護師に嫉妬してるのかのような態度だと、僕はふと思ってしまう 違う! そうじゃない 13歳の餓鬼が、病室で如何わしいことをしているのが、気に入らないだけだ 僕は自分の心の中で、言い訳をするように呟くと大きく頷いた 「この本…俺が欲しかったやつだ」 ジュニアが、嬉しそうに顔を緩める 分厚い料理本を右手で掴むと、中身を確認しようとして、指を滑らせ、ベッドの左側の床に落としてしまった 「あっ…」とジュニアが小さな悲鳴をあげる 「ごめん。ライさん、取ってもらえますか?」 「は? なんで僕が?」 「俺、左腕が……もう動かないから」 ジュニアが、寂しい表情をちらっと見せると苦笑した 左腕が? 動かない? 砂浜で、梓に撃たれたシーンを僕は思い出した 梓はどれだけの人間の自由を奪えば、気が済むのだろう もう死んだ人間を、腹立たしく思ったところで何にもなりはしないが… 恵から足の自由を奪い、侑から声の自由を奪い…息子である蛍からは左腕の自由を奪った 僕は料理本を拾うと、ジュニアの右手に渡した 「ありがとう」とジュニアが礼を言い、今度は慎重にページを捲って中を見始めた 僕は、ついつい蛍の首筋に目がいってしまった 鎖骨と、首に鬱血した跡が数か所あった キスマーク さっきの女がつけたのだろうか? 僕は、「ふう」と鼻息で二酸化炭素を吐きだしながら、苛々する心を胸の中に閉じ込めた 「もう、全く動かないんですか?」 「左手?」 ジュニアがぱっと本から顔をあげた 「そうです」 「リハビリをして、日常生活に支障はない程度にはする。でも細かい作業は、指が動かいだろうって」 「そう、ですか」 「ライさんの身体を満足させるなら…できますよ?」 「は?」と僕は不機嫌な声をあげた ジュニアがにこっと微笑むと、また本に視線を戻す 「何を言っているんだか。僕を満足させるなんて…ジュニアには一生かかってもできない」 「そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれない」 「看護師にキスマークを残されるような男に、僕は欲情なんてしない」 「キスマークだけじゃない。下にも…まだ残ってるよ。彼女の愛液が」 「汚らわしい。13歳の餓鬼のくせに」 「俺のせいじゃない。俺はここでじっと窓の外を見てた。さっきの人が、勝手に俺にキスをして、勝手に股間を弄って、気持ちよく跨ってただけ」 「勝手に…って言うけど、反応したんですよね?」 「まあ、勃起はしたよ。だけどイッてはいない。全然、気持ちよくなかったし」 僕は鼻を鳴らすと、花束をまた手に持って、ジュニアの顔面を叩いた

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