24 / 35

あぶり出す裏切り者2

「疑いの眼差しで見ないでくれ。今回の取引で、裏切り者を炙り出す。少し協力してほしい。それだけだ」 「目星がついているのか?」 「ああ。もちろんだ。直接、聞いても答えてくれないだろうからな。罠にはめる」 恵が、にやっと口元だけを緩める 漆黒の髪が、ゆらっと揺れると、背後を確認するように寝室のほうに目を向けた 「早く解決したい。できれば、優衣が寝ついてからの2時間以内で。あまり離れると、優衣が泣く」 父親…なんだな 22歳でも、親になれるんだな 梓様は、母親にはなれなかったけど…恵はすっかり父親なんだ 蛍と優衣の二人の父親で、子供を中心に考える生活になっている 少し羨ましいとか、思ってしまうは…自分がまだ独身だからだろうか? 梓様に気に居られている限り、結婚は望めそうにない 「恵は、父親だな。ミルクもオムツも…手際がいい」 「俺は養護施設で育った。だから…自然と身についた。それだけだ」 恵が、ソファに置いてあるジュラルミンケースをテーブルの上に置く 「これを持って、取引現場に行ってくれ」 「ジュラルミンケースを持っていけば、裏切り者がわかるのか?」 「ああ。わかる。必ず仕留める。後は侑に任せよう」 恵が立ち上がると、寝室に足を向けた 「なあ、恵…怒ってる、か?」 「何に?」 恵が足を止めると、振り返らずに言葉を返した 「梓様と俺とのこと…」 恵が鼻で笑った 「何を怒るというのだ? 梓の性格を知っているだろ? 自分が一番じゃないと気に入らない。自由でいないと腹立たしい。押さえつけられる生活は、梓にはできない。俺は梓を縛りつけるつもりもないし、梓の行動にどうこう文句を言える立場でもない。だから『怒る』などという感情は、存在しない」 恵がまた歩き出した 寝室にいる優衣を抱っこして、旅行鞄を肩にかけた恵が「じゃ、今夜」とだけ言って、俺のマンションを出て行った 道元坂 恵という男は、どうしてあそこまで感情に疎いのだろうか? 普通なら、怒らないか? 人の妻を寝盗って、とか…相手の男を憎んだりしないものだろうか? 不思議な男だ 何度あっても、何度言葉を交わしても、恵の真意がわからない 何を考え、何を想っているのか さっぱりわからない 梓様はそんな摩訶不思議な部分に、惹かれたのだろうか? いつまでたっても、恵の心を読めない…そんなところが梓様の興味の対象になったのかもしれない 午後10時 工場の倉庫に、俺とライトさんと要の三人で一台の車から降りた トランクに入れておいたジュラルミンケースを俺が手に取る 「それは、梓さんからですか?」 ライトさんが、質問した 「ええ。純度100のヤクです」 俺はケースをライトさんに見せながら、返答する 順次到着していく車から、俺たちの組織の人間が降りてくる 俺とライトさんのまわりを固めて、ガードしてくれる 俺は梓様のおかげで、組織の上に位置しているけど、ライトさんは違う ライトさんの手腕を梓様に認められて、のし上がってきた人だった その手際の良さや、スマートな身のこなしに俺は憧れている 「行きましょう」というライトさんの言葉で、俺たちは倉庫の中に足を踏み入れた 20人近くの男がどどっと倉庫内に入る…が、中は静かなものだった 誰もいない 「え?」とライトさんが驚いた顔をした 俺も誰もいないのに驚いたが、それが表情に出る前に、ライトさんに拳銃を突きつけられた こめかみに銃があたる これは…一体、どういうことなのだろうか? なぜ、自分は銃をライトさんに向けられているのか? 意味が全くわからない 「嵌めたのですか?」 「え? あの…」 「いつわかったんです?」 「はい?」 ライトさんの質問に、俺の頭は真っ白になる 「貸せ」と、ライトさんに無理やりジュラルミンケースを奪われる ガチャっと中身が露わになる…が、中には上白糖と書かれてある砂糖が入っているだけだった え? ええ? ライトさんの顔が険しくなると、俺の腹に銃弾を放った 「私を馬鹿にしているのですか?」 俺は銃弾の衝撃で、地面に尻もちをつくと、立っているライトさんを見上げた 「あ、あの…俺、恵に渡されただけで…」 「言い訳はいらないですよ。バレたなら、殺す。それだけです」 殺す? 俺、殺されるのか? 俺はライトさんの銃口が、俺の心臓に狙いを定められる前に、腰にささっている拳銃を握り締めて、撃ち放った どこを狙ったか…なんて、わからない ただ死にたくない それだけの感情で、引き金を引いた 何がなんだか…わからない 「嵌めた…って何だよ。ジュラルミンケースを持っていけば、裏切りモノがわかるって言われただけなのに…」 自分で吐きだした言葉で、はっとした 視線をあげると、態勢を立て直そうとしているライトさんを見つめる 「裏切り者ってあんただったの? 俺、あんたを尊敬していたのに」 ライトさんがふっと笑いを漏らすと、拳銃を持ち上げる 「尊敬されるようなことなんてやってないですよ、侑」 ニヤリとライトさんの口が歪む ガチャっと親指が動く

ともだちにシェアしよう!