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あぶり出す裏切り者3

殺されるっ 俺は瞼を堅く閉じた ドォンっという音がし、俺は肩が跳ねた い、痛くない? 俺はゆっくりと瞼を持ち上げた ライトさんが大きな目を開けたまま、その場に崩れ落ちていく ライトさんの向こう側には、黒系のスーツに身を包んでいる恵が拳銃を構えて立っていた 銃口からは、ほのかに硝煙が立ち上っている 恵が、ライトさんを撃ったのか? 組織の下っ端に交じって、拳銃を向けている恵が、腕をおろすと、一歩二歩とこちらに近づいてきた 「恵…これは…」 「ライトは、警察の人間だった。潜入して捜査をしていたんだ。情報を流し、我々を嵌めようとしていたんだ」 「ライトさんが? まさか…」 「信じようが信じまいが…勝手だが。真実だ」 恵が、拳銃をホルスターに仕舞う 状況の把握ができていない、組織の人間たちに、恵が的確に指示を出して、その場から遠ざけた 「侑、死体を片付ける。手伝え」 「片づけるってどうやって…」 「事故に見せる。妻と一緒に車で移動中に死んだってな」 恵が、血がドクドクと流れ出ているライトの死体をひょいっと持ち上げると歩き出した 俺はジュラルミンケースだけを掴んで、慌てて恵を追いかけた 恵ほうが俺より2歳も年下なのに、まるではるかに年上のように見えてしまう きびきびと動く身体に、堂々とした態度が恵をより一層大きな男に見せているのかもしれない 組織の中で、尊敬するべき人間はもしかしたら、ライトさんではなくて、恵だったのかな? 俺は、恵が近づいていく車に目をやった 心なしか、車が動いているように見えたからだ 確かに車は揺れていた 後部座席に座っている女性が、助けを呼ぼうと暴れているのだ ガムテープで口を押さえられてるというのに、バタバタと動かせる身体を動かして、車を揺らして、出せる音で『んー、んー』と叫んでいた 恐怖に満ちている瞳が、俺に突き刺さる 怖い、助けて、死にたくない…という思いが皮膚に痛いくらいに伝わってくる 俺もついさっきまで、ライトさんに拳銃を突きつけられて思っていたから、リアルに感じられて背筋がぞくぞくした 「恵、この人は?」 「ライトの妻だ。他に子供がいたが…連れてこれなかった」 「連れて…って…?」 「死ぬなら一家全滅のほうがいい。適当に残されたら、残った家族が苦しむ」 「こ、殺すのか?」 恵の手がぴたっと止まると、俺に振り返った 「お前は何のためにここにいる? 梓の身体を気持ちよくするために存在しているわけではないんだろ? やるなら徹底的やれ。やれないなら、最初から首を突っ込むな。ここでお前を守るのは、お前しかいない。自分を信じ、守るべき梓を一番に考えろ。それがここでお前が存在する意味だ」 「全ては梓様のために…ってやつ?」 「そうだ。生きるも死ぬも、梓にかかっている」 全ては梓様のために… 組織での口癖というか、合言葉というか 誰もが知っていて、誰もが心に恐怖を感じている言葉だ 梓様に嫌われれば最期…命はない 恵も俺も、死と隣り合わせに生きている どんな理由で梓様の怒りを買うかわからないから そう考えると、恵は凄い人間だ 梓様に組織の中で認められ、愛され、夫となった 誰もが羨む梓様の隣の席を、18歳で手に入れた 22歳なった恵には、2人の子供恵まれている 名前の通り、恵は幸せに『恵』まれているんだ 「侑、後ろに座って、女を押さえていろ。一般道まで俺が運転する。それから交通事故に見せて処理をする」 「わかった」と俺は言うと、後部座席に乗り込んで、ライトの妻を力づくで抑え込んだ 死の恐怖に陥った人間は、なんと力強いのか 火事場の馬鹿力と言うのだろう 女とは思えない力で抵抗され、何度も後頭部をぶつけた その度に、恵に怒鳴られる 俺にできることをして、今を生き伸びる そんな軽い気持ちで、人生を歩んで、気が付いたら梓様に拾われていた いや…梓様に飼われているのだろう 俺は梓様のペットにしか過ぎない 梓様の動かすチェスの駒でしかないのだろう それでもいい 生きる価値があるなら この手が血で汚れようと、今を生きる 俺にはそれだけしかないから 「気分が悪いわ」 梓様がぷいっと横を向く 機嫌が相当悪そうだ 横でわんわんと泣いている優衣に気づいて、恵がベビーベッドへと近づき、オムツの交換を始めた 俺は梓様の足元に跪き、頭を垂れていた 「侑なら、もっとしっかりとできると思っていたのに。意外と何もできないのね。恵が動かなかったら、ずっとライトに情報を流されていたのよ」 「申し訳ありません」 俺は唇を噛み締めた こんな簡単に梓様の怒りを買うとは…思いもしなかった 俺の人生はここで終わりを告げるのだろうか 恵は我が子のオムツを替えて、近くにセットしてあった水筒に手を伸ばして、粉ミルクを作り始める 「はあ。恵が動いてくれて良かったわ。ねえ、恵…今夜は一緒に寝られるかしら?」 「いや。優衣が寝たら、少し仕事をしないと」 甘い声で囁く梓様の誘いをあっさりと断る恵に、梓様の目がつり上がった さらに気分が、低下したみたい 「そう…仕事。優先事項は優衣で、次が仕事…わたくしは一体…どこに存在しているのかしら?」 ふん、と鼻を鳴らした梓様が椅子から立ちあがって、俺の顎に指を触れた 「わたくし、優秀な男が好きなの。侑には少しお勉強が必要ね。わたくしの望む男になって頂戴」 にこっと笑った梓様の手には、きらりと光るナイフが動いた 「くはっ…」 俺は喉がカッと熱くなると、眼前で血が噴き出した 喉の傷口に手をあてると、俺はその場に倒れ込んだ 「恵、その煩い子をどうにかして。泣き声を聞いただけで、激しい頭痛に悩まされるわ。顔も見たくないの」 「梓、優衣は…」 「口答えでもする気? 殺してと言ってるの。そんな子に、恵との時間を奪われるなんて…嫌なのよ」 薄れゆく記憶の中で、梓様が我が子を殺すように命令しているのが聞こえた 恵が大切に育児をしていたのに… 梓様、お腹を痛めて産んだんじゃないんですか?

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