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ギリギリの生活の中で飛び込んだ世界2
『あ、あ、ん、ああっ』と、甘い声が聞こえてくる
ホストの誰かが、金持ちおっさんに身体を買われたのだろう
表では、そういう雰囲気の店ではなくて、至って普通の…同性愛者が集まる高級ホスト店だ
だけど、知っている人間は知ってるんだよな
金を出せば、ホストを抱けるって
だけど…簡単には抱けない
オーナーの許可が下りなければ、簡単に奥の部屋には入れてもらえない…というか、ホストを抱けないんだ
僕も何人か…僕を抱きたいというオッサンがいたけど、オーナーの許可が下りなかったという理由で、流れている
オーナー曰く、まだ僕が18歳の未成年だという理由らしい
給料がアップするなら、別に僕の身体など好きにして構わないのに
そこに恋愛がないとわかっているセックスなら、きちんと仕事だと僕は割り切れる
店の客と恋愛をしたいなどと、思わないし
第一、僕は理想が高いし、汚れた大人に興味なんて全くない
僕は弟の智紀が、好きだ
あの可愛い瞳、素直で純粋な心がどれだけ僕を癒してくれているか
想像しただけで、自然と口が緩んでしまう
ああ、どうして僕の弟は、天使にみたいに可愛いのだろうか
誰にも渡したくない
『どうしてです? あの…莱耶とかいう男だけ許可をおろさないんですか、オーナー』
あまり店に顔を出せないオーナーの代わりに、店長として店の運営を任されている要さんの怒鳴り声が、オーナー室から聞こえてきた
『だって…何件も依頼が来ているんですよ? あの子は金になる。店にとって利益につながる子なのに、どうして許可を出さないんです。ナンバー1になる素質があるって仰ったのは、オーナーなんですよ?』
要さんが怒るなんて、珍しい
しかも怒鳴っている内容が、僕ってなると無性に気になるんだけど
僕は廊下に人気がないのを確認すると、オーナーの部屋に近づいて、耳をそばだてた
『確かに。表のナンバー1と、裏の仕事は違いますけど。でも全く関係ないとは言えませんよ。大金が動くのは、裏で払ってくれている客がいるからでしょ? 莱耶自身も、別に構わないって言ってるのに。どうしてオーナーがダメと言い続けるのか…』
僕はオーナー室のドアをノックすると、ゆっくりとドアを開けた
デスクに座っているオーナーと、デスクの前に立っている要さんが振りむいていた
「あの…声、大きくて丸聞こえなんですけど」
要さんの顔が一気に赤くなった
「いや…別に、いいんですけど。僕の名前が聞こえたんで、気になってしまって」
オーナーがにっこりと笑うと、手招きをしてくれる
「あ、じゃあ。お言葉に甘えまして」と言いながら、僕はドアを閉めて、要さんの横に立った
「僕、営業時間内に抱かれるんであれば、構いませんよ? ただ時間外は…お断りします」
僕はぺこっと頭をさげる
『男に抱かれた経験は?』
オーナーがメモ用紙に字を書いた
「ないです。後ろに、突っ込まれるんでしょ? それくらいは知ってます」
オーナーが苦笑すると、首を左右に振った
『要、少し席を外してくれないか?』
オーナーが手話で要さんに、話しかける
「わかりました。きちんと莱耶と話をして決めてください」
要さんが、頭をさげるとオーナーの部屋を出て行った
ぱたんとドアが閉まると、僕はオーナーの表情を見つめた
あまり明るい顔はしてないけど、笑顔は崩していない
「もしかして呆れてるんですか?」
僕の質問に、オーナーが首を横に振る
『なぜそんなに、セックスを軽視しているのか…。不思議なんだ』
メモの文字を呼んで、僕は首を捻った
「だって『愛』の存在しないセックスなんて、ただの快楽を求める遊びみたいなものだと思う。子供が外で遊ぶのが楽しいって気持ちと一緒じゃないの?」
くすっと、オーナーが鼻を鳴らした
『同じような人を知ってるけど、寂しい人生になるよ?』
「僕は寂しくない。だからさ。客に許可出していいよ」
オーナーが首を左右にふりながら『ダメ』と書いた
「どうして? 僕がいいって言ってるのに」
『俺が駄目って言ってるから』
「意味がわからないよ。商品はこの僕だろ?」
『セックスで、金を得ようとしている君が気に入らない。そんなに金が欲しいなら、俺の店以外で働くといい』
僕はバンっと勢いよくデスクを叩いた
「やっとの思いで手に入れた仕事場をそう簡単に手放せないって知っていて、そういうことを言うなんて、卑怯だ。僕には金が必要なんだ。金が貰えるためなら、身体を売れる。そういう考えのどこがいけない? 僕は間違ってるなんて思ってない。腐るほど金を持っているやつから、もらえるなら、いいじゃないか。セックスくらい、どうってことない!」
オーナーがぷいっと横を向いた
もう僕と話す気はないのだろう
僕も、「ふん」と鼻を鳴らしてから、オーナーに背を向けて歩き出した
何の挨拶もせずに、僕は部屋を出る
腹立たしい
僕がいいと言ってるのに、どうして店の利益にならないほうを選択するのか
要さんが怒鳴る気持ちが、よくわかったよ
あんな我儘オーナー!
すぐに他の働き口を見つけてる…んで、さっさとこの店を辞めてやるんだ
ここよりもっと時給の良いところに行ってやって、あいつの鼻をへし折ってやるんだ
…と、息巻いたって現実は厳しい
求人広告の雑誌を片手に、僕は深い息を吐きだした
ここより好条件な店はいくつか…あった
面接も受けた
だけど、履歴書の僕の名前を見た瞬間に、どいつもこいつも顔色を変えるんだ
絶対に、オーナーが手をまわしているに違いない
何が気に入らないって…僕を雇っておきながら…金になる仕事をさせてくれないのが気に入らない
苛々する
なんだよ…って頭を叩きたくなる
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