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ギリギリの生活の中で飛び込んだ世界5

僕だけがイッた オーナーは僕にキスをするだけだった 股間が大きくなっていたかすら…僕にはわからなかった もしかしたら大きくなってなかったのかも オーナーは、嫌いなのか? 男同士のセックスは好きじゃないのかもしれない こういう店のオーナーだから、てっきり同性愛者かと思ってたけど オーナーは違うのかな 僕は微かに残る尻に入った指の感触を思い出すと、とたんに悲しさに襲われた いつからだろう 僕が他人と違うって思うようになったのは… 異性からの触れあいに、拒絶反応を示し始めたのは、確か…両親が死んでからだった でももっと前から、なんとなくは感じていた 僕は違うって 普通の男子とは違う感覚を持っていて、女子よりも男子に興味があった 性の対象が、女よりも男だって確信してからも…苦しかった 僕は間違っている 僕が変なんだっていう、劣等感ばかりが付きまとっていた 両親が死んで、弟と一緒に生きて行くんだって心に決めて 日夜関係なく働くようになって、考える時間も少なくなって、己の心が改善されたかと思ったけど ただ目をそむけていただけなんだ 考えたくないことを、考えなかっただけ やっぱり僕は、おかしいんだ 男が男を好きになるなんて、変なんだよ 僕は控室にある新聞に手を伸ばすと、ぼけーっと文字の羅列を眺めた あれ? これって、ここから近いや 僕は昨日の発砲事件の記事を読み始めた 昨日、道元坂ってやつが拳銃を持ってたけど…まさか、な あいつ、車椅子に乗ってたし、こんな事件起こせるわけないよな 「ライ、昨日…裏に入ってたよな?」 要さんが控室に顔を出すと、僕に質問をしてきた 「え? あ、はい」 「そっか。じゃあ、許可は下りたんだな。3番に客の指名だ。テーブルじゃなくて、個室のほうな」 「わかりました」 僕は席を立つと、個室に向けて歩き出した あー、しんどっ バージンだって言ったのに、切れたじゃないか 僕は自分の血で汚れたシーツのシミをマジマジと見つめた けっこう染み込んでるなあ 痛かったもんなあ 血を見て、さらに興奮するオッサンだとは思わなかったよ バタンとまたベッドに横になると、ジンジンと痛むお尻を擦った ガタンと音がして、僕は顔をあげた 『も…申し訳ありません。ライが、昨日は客を取ったって言うので』 廊下で要さんの必死な声が聞こえた なんだ? また僕の話題で、盛り上がってるの? やめてよ 今の僕、二人の間に入れるほど、軽快な動きができないんだから 荒々しく僕のいる部屋のドアが開くと、ズカズカとオーナーが怖い顔をして入ってきた やっとの思いで上半身を起こすと、すぐに頬を叩かれた え? なんで? 僕は叩かれるの? 僕の脳内が真っ白になると、ぎゅうっとオーナーに抱きしめられた 骨がギシギシ言うんじゃないかってくらい、強い抱きしめだった 「い、痛い…痛いってば、オーナー」 オーナーが離れると、僕の頬を触れた 次に携帯を出すと、オーナーがピピっと打ち始めた 『手話を覚える気ない? 莱耶ともっとスムーズに話しができるようになりたい』 未送信のメールの文字を見て、僕は大きく頷き、オーナーに抱きついた 僕、この人を好きになってもいいんだって気がした この人なら、変な僕を受け入れてくれるのかもしれないって思えた

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