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それでも不安がある2

俺は首を横に振った 莱耶の顔が、「やっぱり」と言わんばかりのショックを隠せない表情になる この胸の内を、莱耶に話せたらどんなにいいだろう 己がなぜ、莱耶を抱けないのか…いや、抱きたい 抱きたいが、無駄な思考が邪魔をする 思い出したくもない過去が、俺の想いに蓋をするんだ 何も考えずに、莱耶を抱けたらどんなに幸せな時間を過ごせるのか 俺は、莱耶の中にある指をもう一本ほど増やすと、激しく動かした 「ああっ、あ、んんぅ。やぁ…オーナー、イキそう…イッちゃうよ」 莱耶の全身がビクビクと震えだす ぐちゃぐちゃとジェルが音をたてる 莱耶の中がさらに熱を増すと、ベッドのシーツに莱耶の液が飛び散った 四つん這いになっていた莱耶の腕の力が抜けて、ばさっとうつ伏せになった 俺の使っている枕を引き寄せた莱耶が、頭の下に入れると、「はあ」と熱い息を吐きだした 「オーナー、僕…今夜も裏の接待が入ってるの?」 少し擦れた声で、莱耶が質問してくる 俺はベッドから降りると、ちらっと視線を送ってきた莱耶ににこっと微笑んだ 『2件ほどね』と手話を見せると、莱耶が「そっか」と呟いた 少し残念そうで、少し嬉しそうな表情の莱耶を見て、可愛いと思ってしまう 客と寝るのには、抵抗はないと言っていた それで給料がアップするなら、嬉しいと そう言っておきながら、泣きだしそうな表情をしている莱耶が愛おしいと思う いくら弟とためとは言え、男に男の身体を好き勝手に触られるのは…嫌なんじゃないかと思ってしまうが 莱耶はどう考えているのだろうか? 俺との関係も、給料アップのための身体の付き合い…だったなら、俺の気持ちも少しは楽になるのかな? 割り切った付き合いのほうが…きっと… 俺は寝室を出ると、キッチンに足を向ける コーヒー豆を挽き、温かいコーヒーを淹れる準備を始めた セックスをした後のコーヒーが好きだ 相手と一緒にのんびりした時間の中で、乱れた後の恥ずかしさを残しながら、ほっと息をつく コーヒーの熱が、情事のあとの火照った身体が冷えていくのを引き留めてくれるみたいで、余韻が長く味わえる様な気がしていた 湯気が立ち上る白いマグカップを2つ、両手に持って、寝室に入った 疲労の残る身体を、ベッドに預けたまま、莱耶が顔をあげる 鼻をひくひくさせて、「良い香り」と呟いた 莱耶は俺の楽しみを、分かち合ってくれる それが堪らなく嬉しい 梓様だったら、コーヒーも飲まずに、時間を確認して、屋敷まで送れと怒るだろうなあ 俺はベッドに座ると、莱耶の分をベッドのわきにある棚に置いた ほろ苦いコーヒーを、俺がごくりと喉を鳴らして飲む姿を、莱耶がじっと眺めていた 「オーナーのコーヒーを飲む姿って、なんか反則だよ。またエッチしてほしくなる」 莱耶の言葉に、俺はぶっと口からコーヒーを吹き出した 莱耶が、にこっと笑って身体を起こすと、コーヒーに手を伸ばした 「あちっ」と言いながら、コーヒーを一口 ぺろっと舌で唇を舐めて、コーヒーの苦さを顔で表現する 莱耶の仕草のほうが、反則だろ まるで俺を誘っているみたいだ 『俺を誘ってる?』 マグカップを棚の上に置いて、莱耶に手話を見せた 「誘ってる。これでエッチしてくれたら、僕、最高に幸せだな。もちろん、最後までっていう意味だけど」 俺はふっと笑うと、首を横に振った 絶対に最後まではしない 最後までして、莱耶に溺れて… 事実を知られて、捨てるなんてされたら、浮上できなくなる 自分でも臆病だとは、重々承知している わかっているけど、怖い 不安の塊が、どんっと心を支配しているんだ そのくせ、莱耶が仕事で誰かに抱かれると思うと、嫉妬をして…自分のマンションに呼んでいる 矛盾してる 好きなのに、抱けなくて… 抱けないくせに、ベッドに押し倒して… 全く、自分で自分が嫌になる この胸に抱くドロドロとした感情の対処の仕方がわからない どうすればすっきりするのだろうか? どうすれば、本心を莱耶に伝えられるのか どうすれば莱耶を抱けるのか 俺はベッドの脇にある棚から、封筒を出すと、莱耶の隣にそっと置いた

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