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第4話

「それ、なに飲んでいるんですか?」  細い指で俺のグラスを指さして、ニコリと笑顔を見せた彼。笑っているくせに瞳の奥がキラキラしていてまるで泣いているようだと思った。それが第一印象。 「マルガリータ」  我ながらキザな事をしている。カクテルに自分の気持ちを投影させるなんて。 「……失恋でもしたんですか?」  グラスの縁に飾られた塩をなぞって、その指を舐める。 「なんでそう思うの?」  指を舐める仕草が官能的で思わず見惚れてしまう。その白い指は一体どこの誰を触れる為にあるのだろうと。 「無言の愛、でしょ?」 「……言えないまま終わったけどね」  いつもなら一人飲みをしている時に話しかけられるのは好きじゃない俺が、彼のその静かな雰囲気とアンバランスな色気にいつの間にか蜘蛛の糸にかかった虫のように捕まってしまっていた。  囚われたら最後。あとは喰い尽くされてしまうだけ。 「オレもね、今日失恋したんだ」  自分のグラスを手に取って一口含む。飲み込んだアルコールが喉を魅惑的に動かしていく。 「だから、これ」  カウンターにグラスを置くと中の氷がカランと鳴った。 「ギムレット?」  カクテルの事はそこまで詳しい訳じゃない。ただ、このバーのマスターがカクテル好きで通っているうちに覚えてしまった。  カクテルと、カクテル言葉。マスターが教えてくれるカクテル言葉はどれも恋愛の言葉ばかりだ。

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