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第6話

 ただ、誰とも本気で付き合った事がないだけだ。好きだと言われた事もあったけれど、どうしても親友が頭の中でチラついて付き合えなかった。好きになれるかもしれないと思った相手もいたけれど、なれなかった時にお互い傷付くと思うと躊躇してしまう。  だから一人でいた方がいいんだ。たまに一晩限りの相手や、後腐れのない知り合いと身体を交えるだけの方が俺には向いている。 「じゃあさ、失恋した者同士、慰め合わない?」  それは妖艶な微笑み。捕らえた獲物を逃がさない瞳。 「こんな雨の日は、一人で眠るのは寂しいでしょ?」  そう、こんな失恋した雨の日だから。  少しだけ寂しくて寒い熱帯夜だから。  互いの熱で埋め合いましょうと、絡められた指が俺を離さなかった。    一晩だけの慰め合いだと思っていたのは俺だけの様で、その日からよくバーで見かけるようになった。今まで気が付かなかっただけで前から来ていたのかもしれない。けれど、一人で飲むのが好きな俺は常連客の顔なんて殆ど覚えていなかった。  今年の夏は雨がよく降る。天気予報を見ると、異常気象だのナンダカ現象だのと解説していた。雨が降るからと言って夏の暑さが変わる訳じゃない。不快指数は上がるばかりだし、早く夏が終わればいいとこの時までは思っていた。

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