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第7話

「雨が多いね」  慰め合った日以来、店で見かけても話しかけてこなかった彼が隣に座る。  店内はいつも薄暗い照明だから隣に座るまで気が付かなかった。彼の目の回りと口元に明らかに殴られた痕跡がある事を。 「……なんかあった?」  気の利いたセリフなんて持ち合わせていない。こんな時に優しい言葉をかける事も出来ない。 「オレ、貴方のそういう直球なとこ、結構好きだよ」  笑った口元が痛々しくて見ていられなかった。  ただ、目を逸らした俺の手を握ってきたから黙って握り返した。それしか出来なかった。 「他の人と寝た事、バレて逆ギレされちゃった。自分は浮気しまくりなのにさ」 「それって、俺の事? 別れたんじゃなかった?」  手を繋いだまま、ソイツは小さな溜め息を吐いた。 「オレはね、別れたつもりでいたんだよ。でも向こうはまたいつものケンカだろって思ってたみたい。バカだよね、アイツの部屋から自分の荷物取りに行ったの貴方と寝て帰った後だよ。昨日まで荷物がないの気が付かなかったんだって」  簡単に言い放って呆れた顔をしているのに、一度寝たからか彼が無理しているのが分かってしまった。彼はまだソイツの事を好きなんだ。たとえ、殴られたとしても。 「それで、どうするの?」  殴るような奴はやめておけ、とでも言えばカッコもついただろう。  でも俺は知っている。相手にまだ惚れてるうちは誰が何を言ってもまた戻ってしまうんだ。 「どうしようかな……」  答えはとっくに出ている。彼はきっとまた浮気性の彼氏の傍で我慢しながら、他の奴と浮気して帰ってくるのを待つのだ。

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