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第8話

「悩んでるならさ」  それでも俺は何も出来ない。何かしても無駄だと分かるから。 「雨の日くらいは寂しいの紛らわすの手伝うよ」  酷い口説き文句に俺自身、苦笑した。こんな下手くそな誘いに乗るのは彼くらいだろう。 「いいね、雨の日限定の真夏の夜の戯れ、なんてね」  それからはズルズルと関係が続いた。  雨の日になるとバーに行き、彼がいないと少しホッとした。少なくとも今日は殴られていないと安心した。痛い目にはあってないと。  雨の日以外で彼にバーで会うことは一度もなかった。それで良かった。痛々しい痕は見たくなかったから。  けれど何回かに一度、カウンター席の一番隅で弱々しい背中を見つけた。その隣にそっと座って黙って手を握る。顔にアザがある日もあれば、身体のあちこちに傷を作っている日もあった。  それは何故か雨の日ばかりで、「雨が降ると相手の機嫌が意味もなく悪くなるせいだ」と言っていた。機嫌のいい雨の日もたまにあるから、見極めるのが大変だと哀しく笑う。  そんな彼を自宅に連れて帰って傷の手当てがてら風呂に入れさせる。明るい浴室では彼が受けた暴力の痕がよく見えた。それを一つ一つ丁寧に洗う。洗ったって消えやしないけど、他にどうしたらいいか分からなかった。  風呂から上がると彼の髪をドライヤーで乾かして、ベッドの上まで抱き上げて運ぶ。  その後は余すこと無く全身を甘やかす。時間をかけて限りなく優しく抱く。何度も何度も、声が嗄れて意識が飛ぶまで。  受けた痛みが少しでも癒やされるようにと――。

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