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第9話

 そんな関係を続けていたある雨の夜、仕事を終えて帰宅した俺の部屋の前で座り込む彼がいた。裸足で、いかにも着の身着のままという状態で。  雨の夜だというのに気温はまだ高くて、湿気も酷いというのに彼は小さく震えて膝を抱えていた。  何も言わずに鍵を開けると彼を抱き抱えて風呂場に直行すると服のままシャワーを浴びさせた。  頭からシャワーを被ったのに、その目に涙が流れている事に気が付いて胸が張り裂けそうになった。  どうしてそんなになってまで付き合い続けるんだ。もうバーに飲みに行く心の余裕もないくらい相手に酷い扱いを受けて傷付いているのに。  それでも俺は彼に「帰れ」とは言えない。俺を頼るなとは言えない。  彼が相手を好きな限り、俺は何も言えないんだ。    それからも彼は何かある度に俺のマンションまで直接やって来た。その頃にはもうバーに行く事はなくなっていた。  殴られようが、殴られていなかろうが、雨の日になると彼は俺の部屋の前で待つようになった。俺もそれを当たり前のように受け入れていた。  事が終わればすぐに帰っていた彼が朝まで一緒にベッドで眠るようになり、いつの間にか身体から殴られた痕がなくなっている事に気が付いた。  相手と上手くいっているのか、それとも別れたのか。俺はそれを訊けないまま、ただひたすら彼を蕩けるくらいに甘く優しく抱いていた。

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