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第10話
「今年は雨が多いね」
窓の外を薄着のまま眺める彼の後ろ姿をぼんやり見ていた。
雨が多いおかげで何度も会うことが出来ているけれど、雨の日限定の真夏の夜の戯れだと彼は言っていた。
夏が終わればこの戯れも終わるのだろうと、なんとなく思っていた。
「……なぁ」
「なに?」
薄暗闇の中で振り向いた彼のシルエットは綺麗で、強く抱き締めたら壊れてしまいそうなくらい儚い。
その身体の儚さに溺れてしまった俺は雨の夜だけの相手。どんなに欲しがっても晴れの日には会えない。
「もう殴られてないの?」
「え……?」
「上手くいってるなら、雨の日だからって来なくてもいいんじゃない?」
晴れの日に会えないのならいっそ、この関係を終わらせた方がいい。
夏が終わる前に。戯れでいられる間に。
真夏の雨の夜が終わらないうちに。
「慰め合いはもういらないだろ?」
彼が言えないのなら自分から言ってしまえばいい。
告白すら出来なかった俺が寂しさを埋めてもらうには十分過ぎる時間が経った。
「……だって、雨が降らないと会う理由がないでしょ……?」
押し殺したように呟いた声は、雨音に消えてしまいそうだった。この部屋に他の音が流れていたらきっと聞き逃していた。
「ちゃんと別れたよ。もう好きじゃないって言ったら呆気なくいなくなった。きっとあの人もオレに手を上げてた事、後悔してたんだ、ずっと……」
「……そうか」
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