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第12話
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雨はそれでも降り続く。
寝苦しい毎日を過ごしながら、夏が早く終わることを願った。
夏が終わればきっとこの虚しさも消えるだろう。
いつの間にか長年してきた片思いを失った哀しさも消えたのだから、直ぐにまたこの夏の一時も忘れてしまう。
彼だってもう殴られる相手もいなくなって、今頃は新しい出会いに期待しているかもしれない。雨でも晴れでも、夏でも冬でも関係なく会える相手を。
俺の知らない誰かに抱かれる姿を想像して、胸がツキリと痛む。痛むのは今だけだと言い聞かせ深呼吸をする。
大丈夫。きっと直ぐに忘れられる。
身体だけだと、夏の間だけだと、雨の日だけだと。そんなのは最初から分かっていた事じゃないか。それがほんの少しだけ早く終わっただけだ。
だけど本心では、俺の事をちゃんと見て心をもっとさらけ出して欲しかった。
甘やかして、溺愛して、彼のダメな部分も全部丸ごと引き受けて深く愛したかった。
溺れる前に終わらせようとしていたけれど、俺はとっくに溺れていた。
彼の中の雨に身体は沈んで、もう浮かんではこれない。
直ぐに忘れられるなんて、そんなのは無理だ。忘れようとすればするほど、雨が降って嫌でも思い出させる。
雨音を聴きながら何度も抱いた彼の華奢な身体と、甘い吐息を。
今はもう、雨が止まないのを祈ったりしない。出来ることなら俺が彼を忘れるまで、世界から真夏の雨が消えればいい。
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