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第13話
あれから晴れる事のない思いを抱えたまま数日が過ぎた。残業で遅くなった雨の帰り道、自宅であるマンションの植え込みを囲う低い塀にずぶ濡れで座る人影を見つけて足を止めた。
俯いたまま、髪から爪先まで雨で濡れたその人影を見た瞬間、脳裏に切ない甘さが蘇る。
「……なにしてんの」
さしていた傘を差し出すとゆっくり顔を上げた彼は、どのくらいそこに居たのか少し顔色が悪かった。
「どうしても顔が見たくなって……でもここまで来て、会うべきか悩んで……」
相変わらず綺麗な顔をしている。雨の雫が髪からぽたぽた落ちて神秘的に見えた。
「着替え貸すから中に入ろう」
「でも……」
有無を言わさず彼の手を取り、マンションのエントランスへ入る。自室のある階までエレベーターで上がっていく間、一言も会話はなかった。
玄関を開けると通勤用のカバンを放り投げ、靴も脱がないまま彼を壁に押し付けてどちらからともなく激しいキスを交わした。
濡れた彼の服から伝わる冷えた体温を温めようと来ていたスーツをキスをしたまま脱ぐと、彼の手が性急にネクタイを解いた。
濡れたままの傘が、湿った音を鳴らして倒れた。
「なんで……」
キスの合間に苦しげに彼が呟く。
「なにが?」
キスだけじゃ足りない。足りなくて部屋の中まで舌と足を絡ませながら入っていく。
「もう、慰めは必要ないって……」
「ああ」
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