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とまどいながら【11】

「ん? 何、どしたん? 何を畏まってんの?」 「あ、いや...なんか俺、シンさんの演技にイチャモンつけるみたいな言い方をしてしまって...本当にすいません!」 机に額を擦り付けていると、ピチッと冷たい物が首筋に落ちてきた。 ビクッと肩を震わせてそこに手をやると、水滴のような物が喉仏の方へと垂れてくる。 恐る恐る顔を上げてみれば、悪戯成功!みたいな表情のシンさんが、俺の首にウーロン茶を垂らしていた。 「謝られる理由がわかれへんし。そこを合わせていく為に、こうやって話してるんちゃうの?」 「いや、だけど......」 「あのねぇ、実は俺が感じてた違和感みたいなんもそこやってん。一人で考えてる時は、瞬が謙介を誘惑しようとしてるって思ってた。せえけど航生くんに会うて、こうしてセリフ合わせてみたらね、誘惑したんやのうて決死の覚悟で告白したんちゃうかなぁと思い始めてさ。そんな瞬の気持ちが伝わってたからこそ、謙介の胸の中からは瞬への思いがずっと消えへんかったんちゃうかなぁって。さっきのセリフやったらさ、瞬やのうて......」 「あれ、悠ですよね!」 勢い込んで思わず大声で言ってしまった俺に、プッとシンさんが吹き出す。 「そうやな、俺もそう思うよ。そしたら悠はあんな調子でいこ。そしたらもう一回、瞬を合わさせてもうてもいい?」 小さく頷き、俺は改めて台本に目を落とす。 『なあ、謙介.......』 『うん、何?』 『あのさ...謙介はしたことある...の?』 少しだけ震える声。 セリフのテンポや間合いががらりと変わる。 心臓がトクンと鳴った。 きっと謙介は、今瞬が何を言おうとしてるのか...気づいてるはずだ。 声から伝わる緊張感が俺にも伝染する。 『だから、何?』 何も気づいてない、何も知らないってフリで問い返すと、ゴクンと息を飲む音が聞こえた。 『......セ...ックス...』 顔に熱が集まる。 その伝わってくる緊張感が、決して俺をからかいたくて言ってるわけじゃないと教えてくれていた。 『そんなの...したこと...無い』 『そう...なんだ? じゃ、じゃあさ...俺と...して...みな......い?』 『お前、本気?』 消え入りそうになる語尾がなんだか切なくて愛しくて、俺はまっすぐに目の前の人を見た。 『瞬...?』 『したこと無いなら...お、教えて...あげてもいい...よ...』 思わずその真っ赤な顔で視線を泳がせる親友の方へとにじり寄る。 カタカタと震えているくせに、まるで強がるように誘惑の言葉を吐く親友があまりにいじらしくて、俺はその体をギュッと抱き締めた。 「んふっ、今度はセリフ続いたやん」 思わず腕の中にしっかりと閉じ込めた体から、初々しい空気がスーッと引いていく。 そこで初めて、自分が力任せにシンさんを抱き締め続けている事に気づいた。 恥ずかしくて申し訳なくて、弾かれるように体を離す。 「す、すいません! 俺、つい夢中になっちゃって...」 「ううん、俺も航生くん見てたらめっちゃドキドキして切なくて、なんかほんまに瞬の気持ちになれた気する。ありがとうな」 フワリと笑い、そっと俺の頬を撫でるシンさんの指。 ......あ、どうしよう...俺、今シンさんをもう一度抱き締めたいって...思ってる...... なんだろう、この気持ちって...... 今俺は自分が謙介なのか航生なのかなんだかわからなくなってきて、ちょっと泣きたくなってきた。

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