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とまどいながら【16】
人前で肌を晒す事には慣れてはいるけれど、カメラの無い場所で全裸になった経験なんてほとんど無い。
上から下へと舐めるように見つめるシンさんの視線は、さすがに少しだけ恥ずかしかった。
「ああ、うん...めっちゃ綺麗やな......」
吐息混じりに聞こえたその声にひどく安堵する。
嫌悪感を含まないそれは、俺がまず第一段階をクリアしたと教えてくれているようだ。
「触ってもかめへん?」
「...はい、勿論です......」
全裸で気をつけ!みたいな間抜けな姿がちょっと情けなくて固く目を閉じていると、首筋から肩、肩から胸元へとそっと手のひらが触れた。
酒が回ってるせいなのか、俺の肌を滑っていく感触が熱い。
熱いのに何故だか、触れられた場所からゾワゾワと肌が粟立っていく。
「寒い?」
「......いいえ」
「そしたら...気持ち悪い?」
「......いいえ」
「そっか......」
目を閉じたままの俺の体を、シンさんがギュウと抱き締めてくれる。
「抱き締め返してくれへんの?」
その言葉に、おずおずと瞼を上げた。
俺よりもちょっとだけ低い場所にある瞳をじっと見る。
「抱き締めても...いいんですか?」
「ええよ。せっかくセックスするんやもん、こうして裸の時くらいラブラブな恋人のフリしてる方が気持ち入るやん?」
ツキンと胸が痛くなる。
そうだ、俺はただの映画の共演者で...ただの一晩だけのセフレみたいなもんだ。
あんまりシンさんが色っぽくて可愛くて、おまけにさりげなく気遣いなんて見せてくれるから、つい勘違いしそうになる。
『フリ』という言葉は、俺を一気に現実に引き戻した。
ひょっとすると逆上せそうになっている俺の気持ちに気づいて、先に釘を刺しておこうと思ったんだろうか。
けれどそれを口にしたシンさんは、一瞬だけ顔を苦しそうに歪めた...本当に一瞬だったけれど。
「ベッド、横なって?」
すぐに何も無い表情になったシンさんはそっと肩を押す。
俺は言われるまま、ベッドに体を横たえた。
シンさんが覆い被さってきて、湿った感触が首筋を擽る。
「航生くん、可愛いよ...ほんまに、めっちゃ可愛い......」
俺を安心させる為なのか、左手はずっと髪を梳いていてくれる。
首筋に顔を埋めたまま、その人差し指が乳首を軽く摘まんだ。
残念ながら俺は...あまり乳首は感じない方だと思う。
現に今も、シンさんの指がくすぐったいとは思っても、その感覚はそれ以上でもそれ以下でもなかった。
襟足に掛かる髪の毛が、笑ったようなシンさんの息遣いで微かに揺れる。
「乳首、こしょばい?」
「...はい......」
「そっかそっか、ほんまは敏感なんや? 昔のビデオの時は、ここ触られても何の反応も見せてへんかったのに」
俺が...敏感?
そんな事思った事も考えた事も無い。
特に乳首については、これまでかじられようが捻られようが不快感しか覚えなかった。
何時間弄られようが機械に任されようが、その感覚が変わった記憶は無い。
「なんか、ようわかれへんて顔してんね。そしたらさ、目ぇ開けて俺の方見て?」
首筋から鎖骨を舌でなぞりながら、シンさんの頭が少しずつ下へと向かう。
髪を撫でていた手はいつの間にか俺の指を絡めとり、しっかりと握りしめてくれた。
不意に乳首が熱い粘膜に包まれる。
チュウと吸われ、口内で舌先がそれをコロコロと転がした。
ゾワリとまた肌が粟立つ。
くすぐったい...くすぐったい......
身を捩りその感触から逃げようとするものの、しっかりと繋がれた手と乗り上げた体がそれを阻んだ。
「ほら、ちゃんと俺の方見てってば。ね? 目、開けて?」
チュッチュッと胸へのキスを繰り返しながら、優しく優しく話しかけてくる。
「目、開けないと...ダメです...か?」
「ダメちゃうけど、俺がどんな顔で航生君に触ってるか見て欲しいねん」
俺をどんな顔で...触ってるか?
見たい...かも...しれない......。
シンさんの指をキュッと握り、ゆっくりと目を開けてみた。
恥ずかしい気持ちが無くは無いけれど、そのまま視線を下ろしていく。
「シンさん......」
俺がようやく目を開けた事に気づいたのか、シンさんはいきなり少し強めに乳首を噛んだ。
「...っつ!」
俺が体を強張らせると、再びそこが粘膜に包まれる。
そのままシンさんの上目遣いが俺を捕らえた。
目線をしっかりと合わせたままそこから唇を離すと、俺にわざと見えるように舌の先だけでそこをクニクニと捏ねる。
俺を見る目は、溢れるほどの欲に濡れていた。
伸ばされた舌はそこだけが別の生き物になったように、新しい反応を見せるのを待っていつまでも蠢いている。
トクトクと速くなる鼓動。
上がってくる体温。
シンさんの目とイヤらしい真っ赤な舌に、俺の中の欲が煽られていく。
「ほらな、ここ真っ赤でプックリしてきたら...こっちもプックリしてきたで? 乳首でこうやって感じられるんやから、航生くんてやっぱり敏感で可愛いよ。恥ずかしないんやで...感じへんよりずっとエエ」
そう言うと、乳首への刺激に合わせるようにシンさんの太股が俺の中心にクイと押し付けられる。
確かに俺のそこは、間違いなく芯を持ち始めていた。
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