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とまどいながら【22】
あれほど寒気で震えが止まらなかったのに、少し暑さを覚えてゆっくりと目を開ける。
汗をかきすぎたんだろうか。
なんだかすごく喉が渇いた。
体を起こそうと試みて...温かい物が腕枕をねだるみたいに俺の体にピッタリと貼りついている事に気づく。
......高熱出してる人間の隣で、何をやってるんだ?
......こういう時って、普通は枕元に腰掛けてるとか隣の部屋で様子を窺うとかするもんじゃないの?
......つか、風邪がうつるから!
まだあんまり頭が働かない中、色々グルグルと考え、結局のところ『喉が渇いた』という結論だけが残る。
一先ずは隣ですやすやと眠る人に少し避けてもらいキッチンへ行こうと、その背中をそっと揺すった。
「シンさん、すいません...ちょっとだけ起きてもらっていいですか?」
あまり寝起きが良いわけではないはずの人が珍しくやけにスッキリと目を開いたかと思うと、その目を丸くして俺の方を向く。
「起きたん?」
「あ、はい」
「もう、寒ない?」
頷いて見せると、嬉しそうにギュウと抱きついてくる。
俺はまだ熱のせいで混乱しているんだろうか...この体を抱き締めて良い関係だっただろうかと少し躊躇ってしまう。
「寒い寒い言うから一生懸命布団掛けてんけどな、それでもガタガタ震えててさぁ...もうここは人肌しか無いやろ!と思うてくっついててん」
得意気に笑顔を見せるこの人が愛しい......
思わずその頬に指を伸ばしかけ、やはりそれは躊躇われてそのまま指を布団の上に落とす。
「......航生くん?」
「あっ...あの...ご迷惑をおかけして...本当にすいませんでした......」
慌てて頭を下げた俺の言葉が不満だったのか、伏せた顔を覗き込まれた。
「なんか変やで? どしたん? なんでそない他人行儀なん?」
...他人行儀も何も他人なんだし...だいたい、俺達はただのセフレで...って......
あ...れ?
じゃあ俺、なんでここで寝込んでるんだっけ?
「そういうたら航生くん、さっき俺の事なんて呼んだ?」
「へ? シンさん...て......ん? あれ?」
当たり前に呼んでたはずの名前に、妙な違和感がある。
俺が喉が渇いてる事に気づいたらしいシンさん?はさっと起き上がり、キッチンに水を取りに行ってくれた。
その間に働かない頭を総動員しながら、今の自分の状況を必死で考える。
「どしたん? 熱で変な夢でも見た?」
風邪とは違う事でウンウン唸りながら頭を抱えている俺の首筋に、ピタッと冷たいペットボトルが当てられる。
あ、そうか...夢?
「慎...吾さん......」
「うん、何?」
ちゃんと名前を呼んだ事が嬉しいと言うようにフワリと零れる笑顔。
今度こそ躊躇う事なく慎吾さんの体を抱き寄せる。
「あ、そうだ...夢だ...夢だった...俺、こうやって慎吾さんを抱き締めていいんだ......」
「やっぱり夢見てたんや? 怖い夢やったん?」
「怖くはない...です。でも、慎吾さんが好きで好きで幸せで、だけどそれを言っちゃいけなくて苦しくて悲しくて...」
意味がわからないと不思議そうな顔をする慎吾さんに、そっと触れるだけのキスをする。
熱で潤いのまったく無くなった唇はひどくガサガサだろうけど、慎吾さんはそんなキスを幸せそうに受け止めてくれた。
「初めての時の事、思い出してました......」
「初めてのって...俺との初めての夜...って...事?」
「そういう事...です」
答えた途端、慎吾さんの顔がみるみる赤くなる。
俺なんかより色んな経験がうんと豊富なはずなのに、昔のたった一日の記憶の話をしただけでこんなに照れてモジモジしちゃうなんて、どんだけウブなんだ?
いやまあ、慎吾さんに『ウブ』って言葉が合ってるのかはわからないけど。
ただあの夜が俺達のスタートで、それは慎吾さんにとっても特別な記憶なんだろうなとは思う。
「そうか、それで『幸せやのに苦しくて悲しくて』やってんな......」
「そうですよ。俺は次のセフレが見つかるまでの繋ぎでしかないって思ってたから。いっぱい幸せにしてあげたいのに俺ではできないのがすごく苦しくて......」
「...俺ね、あの日からずーっと幸せやったで? 呼んだら絶対そばにおるって言うてくれて、ほんまにずっと一緒におってくれて。あんまり幸せやからさ、そんな立場でもないくせに恋人みたいに航生くんを独占してるって事にいっつも罪悪感持っててん」
持ってきてくれたスポーツドリンクを少しだけ口に含んで喉を潤すと、改めて目の前の体を強く抱き締める。
慎吾さんの腕も、しっかりと俺の背中に回された。
「初めて航生くんとしたエッチ、気持ち良かったなぁ......」
「ほんとですか? 俺テクニック無いから...慎吾さんに悦んでもらうにはどうしたらいいんだろうって、そんな事ばっかり考えてました」
「あんな気持ち良かった事無かったもん。勿論体の相性もあるんやろうけどね、何より俺の事だけを考えてのセックスなんてしてもうたこと無かった」
ゴソゴソと腕の中の体が動くと、いきなり俺の首筋を慎吾さんがペロペロと舐め始めた。
ゾクリと走る感触に吐息が漏れるが、自分がついさっきまでベッドに横になっていた事を思い出す。
「だ、ダメです! 俺すごい汗かいてるから......」
「んふっ、別に『しんどいからアカン』ってわけじゃないんや? 汗かいてるからアカンの?」
しんどいかしんどくないかと言われれば...それは当然しんどい。
でも、何もできないほどしんどいのかと訊かれればそれは...恥ずかしながらできる自信がある。
現に今、ふざけているのか本気なのか、スウェットの上から俺の中心に触れている慎吾さんの手の感触に、身体中の熱がそこへと向かいだしているくらいだ。
「そんなん、航生くんが『初めての時』とか言うから悪いねん」
芯を持ち出した事に気づいた指先が、スルリと中に入り込んでくる。
「航生くん...壊れてもエエから幸せにして?」
その言葉に、指の絡められたそこが情けないほどビクンと揺れた。
ドクドクと脈を打ち、収まる場所を求めるように熱を高めていく。
「精一杯幸せにします、ずっと」
次を、未来を約束しても良い関係になったからこそ、初めてのあの夜の切なさは忘れてはいけない。
こうしていられるのは当たり前なんかじゃなくて、俺にとっては奇跡のような物だ。
だから例え苦手だとしても、思いはきちんと言葉にして伝えたい。
わかってくれてはいるだろうけれど、それでもあなたを不安にさせる事なんて無いように...そして俺がいつまでもその気持ちを忘れないように。
「慎吾さん、大好きです。俺がこれからもずっと...あなたを甘えさせてあげますから。だから俺とこれからも...一緒にいてください」
「おるよ、ずーっと。ううん、おらせてな? 俺も航生くんがほんまに好きや」
言うと同時に慎吾さんは上着を脱ぎ捨て俺の体をポフンとベッドに押し倒した。
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