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悋気は恋慕に火を灯す【4】

社長直々にスカウトされ、妙に感激してしっかりとその手を握った次の日には、早速撮影の前段階みたいなインタビューを収録する事になった。 最初に通されたきったない部屋が一応は応接室らしい。 時間に合わせて俺が到着した時には、もうその部屋には固定のカメラがセッティングされてた。 ああ、ほんまに俺がビデオなんか出んねんなぁ...なんて変に実感して、さすがにちょっと緊張する。 それに気づいたんか、相変わらずチャラい格好にチャラい雰囲気の大原さんは、ニヤニヤしながら俺の肩をポンポンと叩いた。 「まあまあ、あんま緊張せんといてよ。そないえげつない事聞けへんから」 「ほんまですか~?」 「うっそ~ん。聞くで聞くで、ガンガン聞くで」 「うわぁ、マジかぁ......」 コーヒーをテーブルに置きながら、ノリノリで何やらヘンテコリンな動きを見せる大原さんの様子に、頭を抱えながらもヘラッと笑いが溢れる。 ニヤニヤ笑いやったはずの大原さんが、フッと雰囲気を変えて穏やかで柔らかい笑みを浮かべた。 ......もしかして、俺の緊張解そうとしてくれたんかな? 目尻にクシャクシャッて皺が入って、格好にごまかされてるだけで案外年がいってんのかもな...とかなんとなく考える。 「うん、エエ感じやで。緊張してウブウブなんも勿論可愛いねんけど、もっと素を出して行こうや。笑うてる顔とかさ、ちょっと困ったみたいに眉毛下げてるとことかさ、慎吾くんの持ってる色んな表情見せていこ?」 「そんなん言われても...俺、上手い事話ができるかどうかもわかれへんし......」 「大丈夫大丈夫。それはほれ、今までさんざん男の子にインタビューしてはバンバン脱がしてきた俺が質問するんやし。慎吾くんはただ、自分に正直に素直に答えてよ。あとは任せてくれたらバッチリやで」 大原さんて不思議やな。 大丈夫やって言われたら大丈夫な気持ちになるし、緊張すんなって言われたらリラックスできるような気分になる。 手元に置いてくれたまっずいインスタントコーヒーを一口だけ口に含んだら、俺は自然と笑えてた。 「そしたらボチボチ始めよか? あ、名前どうする? 本名ってわけにもいかんやろ?」 「ああ、そしたらキ...」 『キラ』と言いかけ、ぐっと言葉を飲み込む。 もうユグドラシルは無い。 俺はこれから、新しい自分の居場所を見つけなあかん...もうユーキくんを探す為だけに生きてたらあかん。 せえから...『ユグドラシルのキラ』はいらん。 「アスカって呼んでもうていいですか?」 一度頷くと、大原さんは固定したカメラを俺の上半身が綺麗に入るように微調整し、録画ボタンを押した。 ********** 「はい、そしたら自己紹介をお願いしま~す」 「アスカです、よろしくお願いしま~す」 「アスカくん、いやぁ...若いよねえ。今いくつ?」 「19歳です。もうじきハタチになります」 「ちょっと話を聞かせてもうたらさ、ほんまに男の子が好きやって言うてたやろ? 当然セックスの経験はあるんやんね?」 「あ、ありますあります」 「初体験ていつやったん? 結構早そうやんなぁ。アスカくん見たら誰でも思うやろうけど、ほんま男前やん。男女問わずモテたんちゃう?」 「いや、まだ1年くらいのもんですよ、初体験から。高校生までは『ホモやホモや』ってかなり虐められてて、先輩なんかにフェラだけさせられてたんで」 「そうなんや!? 意外やなぁ...学校中の人気もんで、お姫様みたいに扱われてたかと思うたのに」 「いやいやいやいや、そないおいしい展開なんてなかなか無いですって。そこそこ女にモテるのに全部断って、目は男ばっかり追っかけてたら...やっぱりノンケからしたら気持ち悪いんちゃいます?」 「そんなもんかなぁ。しかしその先輩らも勿体ない事してんなぁ...こんなベッピンにフェラしかさせへんとか。俺やったら舐めてもらうだけとか、そんなん絶対我慢できへんわ。そんな高校時代の寸止め状態を抜け出したアスカくんは、タチ? それともネコ? 見た感じは完全にネコやんなぁ?」 「そうですか? 一応どっちもいけますけど、好きなんはタチですよ」 「えっ? あ...そうなんやぁ。またそれも意外~。なんか、細マッチョの超絶男前の下でアンアンしてんの似合いそうやのに」 「いやいや、そこは似合う似合えへんの問題ちゃうし。俺ね、自分の神経全部使うて相手を目一杯気持ちようにして、俺と寝た事を『ああ、幸せな時間やった』って思うてもらいたいんです。ちょっとでもその人の中の幸せな記憶として残して欲しいっていうか...なんか受け売りっぽいんで恥ずかしいですけど」 「なるほどね。アスカくんにそういうセックス教えてくれた人がおったわけや?」 「......うん、まあ」 「そしたら逆は? 抱かれる立場やと感じへんていうわけではない?」 「気持ちよくはなりますよ。ただ...幸せにはなれへんから。抱かれてても、幸せやって思えへんから。せえから、自分が幸せやないんやったら、せめて相手には幸せになってもらいたいなぁって」 「難しい事言うなあ。自分が幸せになられへんから相手を幸せにしたいんや? それでちゃんとエッチ楽しめてる? しんどない?」 「......そんなん考えた事ないしなぁ。俺、そんなセックスしか知らんし。でも、ちゃんと俺も気持ちようなってるんやから、それなりに楽しめてると思いますよ」 「そっかぁ...そしたらね、まずはうちの会社自慢のイケメンモデルくんらを、アスカくんの魅力とテクニックで幸せにしてもらおうかな? はい、このプロフィールの中から一番好みの子選んで。その子が記念すべき初ビデオの相手役になりま~す」 「でも、俺が勝手に選んで相手さんの方が嫌とか言わないんですか?」 「そんなもん、アスカくん見て嫌がるようなアホも、チンチン元気にできへん役立たずもうちにはいてませ~ん。ほらほら、選んでって」 「えーっ!? 好みって言われてもなぁ......」 困りに困って、とりあえず一番目に力のあった男の子を指差す。 それが俺のゲイビモデルとしての地位を決めた、最高のパートナーとの出会いやった。

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