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悋気は恋慕に火を灯す【6】
目の前に並べられた写真の中からなんとなく目が好みで選んだ男...武蔵は、俺が思っていたよりもはるかにエエ男やった。
バーで適当に夜の相手を探してたんじゃ、まあまずこんな上等な男には一生会われへんかったやろう。
それでも悲しいかな...コイツはどうやらノンケらしい。
同類ってのはどことなく空気でわかるわけで、コイツには俺と同じ物は感じへんかった。
それでもまあ嫌悪感は見せてへんねんから、さっき大原さんが言うてた通り、プロとして完璧な仕事ができるタイプなんやろう。
握手をしたままの手を引かれ、さっきまで武蔵くんが座ってたベッドへと連れて行かれる。
「おっ、準備できた?」
家庭用よりはちゃんとして大きめのカメラを肩に乗せ、大原さんがリビングに入ってきた。
ベッドに脚を伸ばし並んで座ってる俺らを見て、嬉しそうにオッケーサインなんか出してくる。
「アスカはもう洗浄済みやって? 武蔵は?」
「うん、さっきちゃんと準備した。もういつでも大丈夫」
「そうか。そしたらね、今日の撮影の流れだけ説明しとくわ。尺とか時間なんてもんは考えんでもかめへんから、まずはちょっと二人でそこで話してもらおうかな。余裕あるみたいな顔はしてるけど、さすがに撮影になったらアスカも緊張するやろうから、その辺は武蔵が上手い事リードしたってな」
優しい笑みを浮かべたまま、武蔵くんは『了解』と右手を挙げる。
並んで隣から見るその横顔も、惚れ惚れするような男っぷりやった。
「話しててなんとなく気持ち盛り上がってきたら絡みスタートな。二人のタイミングでかめへんよ。今日は初めての撮影やし、特別設定があるわけでも無いから、もうまったくプライベートのエッチのつもりでやってもうたらええし。カット変更で撮影止めるんも、今日はできるだけ減らすつもりやから。で、最初はアスカがタチな。ベッドの横のカゴに、ローションとゴムとアナルビーズは置いてるから」
「ビーズって使わなアカン?」
「使わんでもいけるんやったら別にエエよ。ただし、ゴム無しの挿入は絶対禁止な」
「ああ、俺は生姦は嫌やからちょうどエエかも...武蔵くん、ビーズ無かったら挿入無理な人?」
「俺? いや、指だけで大丈夫やで。まあ、アスカが慣らすん嫌やなかったらの話やけど。それよりさあ、俺の事武蔵って呼んでぇや。俺、アスカとやったらこの先コンビでいきたいもん」
コンビ?
この世界では、撮影の時に組む相手ってある程度固定されてるんが当たり前なんやろうか?
まあ、わかれへん事はまた後で教えてもうたらエエよな。
今は滅多に会われへんような男前とのセックスを純粋に楽しませてもらおう
......正直カメラは邪魔やけど。
「そしたら照明だけ調整して、今から撮影入りま~す」
サブとしてのカメラなんやろうか?
いつの間にか大原さんのより少しだけ小振りなカメラを覗き込みながら、ジュディさんもベッドの近くに立った。
**********
「はじめまして~」
「よろしくお願いします」
「アスカ、今日がデビューやんな? どう? 緊張してる?」
ひどく自然な仕草で俺の右手に指を絡めてくる武蔵。
甘い空気が一気に漂ってきて、ちょっとずつ俺の中の興奮が高まってくる。
「うん、少し緊張してるかも。カメラの前でエッチした事なんかあれへんし」
「そらそうや、間違いない。せえけどせっかくやし、今日はできるだけカメラあんのん忘れような?」
「......頑張ってみる」
武蔵を真っ直ぐに見ながら、甘えるみたいに絡めた指を擽りニコリと笑ってみた。
俺を優しい顔で見つめてた武蔵の目付きが僅かに変わる。
......あ、ちゃんと欲情してくれてんねやん。
仕事の為やってわかってるけど、それをやっぱり『ただ仕事』って割り切られるんは少し辛い。
ノンケくんにはただの仕事かわからんけど、ゲイの俺からしたら一回一回のエッチがその場限りの恋愛でもあるから。
せえから、こうして少しでも俺に欲を見せてもらえるだけでちょっと安心できた。
「アスカって、メッチャ可愛いな」
そんな言葉も、セリフやなしにちゃんと睦事やって思える事ができる。
俺の頬をそっと撫でる長い指の感触に、うっとりと目を閉じた。
「武蔵もすごい男前...なんかドキドキする」
「ドキドキする? どこが? 胸?」
「......うん」
ゆっくりと顔を近づけながら、武蔵の指が俺のシャツのボタンにかかった。
そこを手間取る事もなく器用に外し、コツンとおでこをくっつける。
「なあ、今ちょっとキスしたない?」
「あー....えっと...うん、した...いかも」
本音やった。
至近距離にありながらそれ以上近づこうとせえへん形のエエ唇が気になってしゃあない。
そんな俺の気持ちを見透かすみたいに、武蔵は嬉しそうに目を細めた。
コイツ、ほんまにセックス慣れてる...相手が男でも女でも。
そしたら俺も遠慮せんといかせてもらおう。
男とのセックスやったら、俺の方こそほんまモンや。
少しだけ感じてた体の強張りも喉の渇きも、いつの間にかどっかに消えてた。
「したいんやったら、アスカからキスして?」
「エエよ」
今度は俺の番。
頬をそっと撫で、肩から脇腹へと指を滑らせる。
それだけの事で微かに体に力の入る場所があり、俺は表情には出さんようにしながらも胸の内でほくそ笑んだ。
......案外敏感な体や。
この男らしいしなやかな体が、これから俺の手で翻弄される所を想像しただけでチンコがズクズク疼いてくる。
「一緒に気持ち良うなろな?」
ピタリと体にフィットしたTシャツの裾から手を入れ、殊更反応の良かった肋の辺りに指を這わす。
そのまま俺よりも大きな体を押し倒し覆い被さると、気になって仕方なかったあの形のエエ唇に激しく吸い付いた。
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