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悋気は恋慕に火を灯す【16】

「これは、今回アスカが再生回数で抜かれた最新作やなしに、先月の頭に配信になったビデオ。このビデオで瑠威が一気に知名度上げたって言われてる」 テーブルにポンと投げられたのは、カラーコピーされたパッケージと宣伝コピー。 どうやら公式サイトか何かの画面を拡大プリントしたもんらしい。 粗い画質でもわかる...かなり際どい場所までデニムを下げ、ラインを強調するように腕をグッと伸ばしてるその体は驚くほどに綺麗。 顔もハッキリとはせえへんけど、それでもかなり目に力のあるイケメンなのはわかる。 写真をひとしきり眺め、そのままパッケージに書いてある宣伝文句を読んでちょっと驚いた。 『ゲイビデオ界に新しいスターが降臨! これほど美しいモデルがこれまでいただろうか。完璧に美しい男...瑠威が、衝撃のハードコアに果敢に挑戦。殴られ、縛られ、ザーメンまみれにされてもなおプライドを崩さない気高いプリンスは、憐れにもゴーグルマン達の魔手に堕ちるのか!? アイドルモデル物では決して味わう事のできない本物の陵辱に興奮MAX!!』 ハードコア? 殴られ縛られ? 本物の...陵辱......!? 「瑠威って子は、陵辱とかSMオッケーのハードコア系のモデルなん?」 「いや、元々はお前らとおんなじように素人ナンパ風のオナニーから始まり、同僚のモデルやらゴーグルマンなんかとの普通のセックスしてたはずや。まあ俺も全部観たわけやないから断言はできへんけどな。ただ、このビデオから明らかに路線が変わって、ここ最近の出演作は殆どが陵辱物か乱交物の超ハードコアになってる。んで、そのハードコア路線を打ち出したんがたぶん...うちにおった宮本と藤巻やと思うわ」 宮本さんと藤巻さんてのは、名前だけとはいえヘラクレスの社長と副社長やった人。 同時に、二人とも元アメフト部出身のガチゲイって事で、趣味と実益を兼ねて自分とこのビデオのゴーグルマン...つまりは覆面男優もやってるらしい。 俺は会うた事無いけど威はかなり気に入られてたみたいで、宮本さんが直々にヘラクレス作品への客演を頼みに来てたと聞いている。 「そしたら再生すんで。ちょっと胸くそ悪なるかもしれんから、もしアウトやったら言うてくれ。最悪、部屋出ててくれてもかめへんから」 大原さんが動画の再生ボタンを押す。 映し出されたのは、マンションの一室と思われる狭い部屋の真ん中に置かれた黒いエアベッド。 確かに後片付けは楽かもしれんけど、シーツもマットも何も無しでボンッて無造作に床に直置きにされてるそれを見るだけで、この会社の粗雑さが表れてる気がする。 まあうちの場合は、大原さんとの関係はイマイチわかれへんけど、とにかく俺らの衣装からヘアメイク、さらに部屋の中の備品の管理まで、細々した事を常に完璧に整えてくれてるジュディさんて陰の立役者がおるからこそ、いつでも清潔で綺麗な部屋やベッドでセックスできてるんやろう。 ほんまに大原さんにもジュディさんにも感謝しなあかんて、こうしてよその会社の作品を観るたびに実感する。 不意に薄汚いベッドを映している定点カメラの後ろから、小さく挨拶をする声が聞こえた。 ......そう、それはほんまに小さな声。 けどその微かに聞こえた声に、突然背中がゾクゾクした。 いや、あの声...何? 『あ、おはようございま~す。じゃあ、とりあえずシャワーと洗浄だけ終わったら、いつものベッドの部屋で待っててくれる?』 『は~い、わかりました~』 今度ははっきりと聞こえた、少し低めの声。 思わずゴクンと唾を飲む。 あれが...瑠威の声...なんや...... 相変わらず誰もいてないベッドを映してるだけの映像に、いきなりテロップが入ってきた。 『今日は遥とのリバセックスだと聞かされて現場にやってきた瑠威くん。騙されていると知らないまま、いつも通りの低いテンションでシャワーを浴びに行きました』 その文字を見てるだけで、すでにちょっと気分が悪なってきた。 ほんまに知らんわけはないやろうけど、この『騙して』ってだけで内容はわかったも同然。 たぶん俺が一番嫌いな内容や。 『あれ? 遥まだ来てないの?』 『うん、ちょっと遅れるみたいだから、ちょっとそこ座って休憩しといて』 スタッフに誘導されるみたいにして、一人の男の影がカメラを横切った。 脚、長っ! 気怠げに頭を掻く後ろ姿。 なんかスプレーで染めたみたいな嘘くさい金髪は、襟足だけちょっと長い。 スタッフに衣装として渡されたらしい安っぽい薄いTシャツは、この後でゴーグルマンにビリビリにさせる為の物なんやろう。 せえけどその薄いTシャツが、この瑠威の肩から背中にかけての均整の取れた綺麗な筋肉を強調してた。 「コイツ、エエ体してんなぁ......」 うちの細マッチョ代表である翔ちゃんがポツリと溢す。 筋肉の質やシルエットだけなら、決して翔ちゃんも負けてない。 いや、ひょっとしたらもっとバキバキでキレキレかもしれん。 ただ身長やら手足の長さやら、瑠威という男の体のバランスはまさに『完璧に美しい男』の謳い文句そのものやった。 退屈そうに一度背伸びをすると、瑠威はクルリとカメラの方を向いてベッドに腰を下ろす。 「あ、確かにちいと武蔵に似ちゃあるよ...でも...きつい顔よなぁ」 待ち時間はよほどイライラすんのか、枕元付近の灰皿を引き寄せて瑠威はタバコに火を点けた。 確かに、系統で言うなら武蔵と近いタイプかもしれん。 浅黒い肌に大きいてくっきりしたきつい二重の目。 そしてシャープな輪郭。 せえけど、武蔵からは匂い立つようなフェロモンと持って生まれた愛嬌みたいなモンがあるのに対して、この瑠威には色気も可愛げも感じへん。 ただ綺麗なだけのお人形さんみたいやった。 2本目のタバコを消した所で、定点やったカメラからいきなり映像がハンディに変わる。 その映像の前方にはタンクトップに白いブリーフ姿、ご丁寧にスイミングキャップまで被ったムキムキのゴーグルマンが三人。 完全に変態やないか...気持ちが悪いくらいの過剰演出に苦笑いしか出てけえへん。 その三人が、ぼんやりと座る瑠威の前にドンて現れた。 『えっ!? ちょ、ちょっとアンタら何? 現場間違えてない? 天野さ~ん、この人達......』 スタッフに状況を確認しようと思うたんか、ベッドから立ち上がりかけた瑠威を一人の男が強引にベッドに押し倒した。 途端に瑠威の表情がキッと変わる。 それは怒りか驚きか哀しさか...... とにかく、ただのお人形さんの作り物の目に生気が宿ったって感じやった。 暴れる瑠威の顔を、馬乗りになった男が思いきり張り倒す。 これはフリやなしに、ほんまに当ててたと思う。 みるみるその頬は手の形に赤なって腫れた。 それでも瑠威が抵抗を止める気配はなく、シャツを破られても色が変わるくらい強うに手首を縛られても、動かせる場所は全部使って暴れる。 暴れ過ぎて擦れた手首からは、いつの間にか血が滲んできてた。 キスすら許せへん瑠威にイラついたらしい一人が、何度目かの張り手を食らわせた。 舌でも噛んだんか、その唇の間からは結構な量の血が流れ始める。 けれど、瑠威はまだ男らを睨みつけてた。 そんな瑠威の態度や目付きに、ゴーグルマン達が本気で興奮してきてんのがわかった。 一人が首を掴み、頸動脈を強く押さえながらその瑠威の小さい頭をガスッガスッとエアベッドに叩きつける。 徐々に色の変わり始めた唇の間から血の混じった泡がコポッて出てきて、あの強い光を放ってた瞳がゆっくりと瞼の裏に隠れた。 「あかんっ、落ちる!」 思わず威が立ち上がる。 かつて格闘技をやっていた人間から見て、これは明らかに危ない状況やったんやろう。 絞め技よりもはるかに乱暴で、ルールすらないそんな危険な行為に、ビデオの中の瑠威は完全に失神してた。 わざわざカメラは、そのせいで漏れてしまったらしいションベンの水溜まりまでアップで映す。 「これ...ガチやん......」 「今首絞めてたん、藤巻さんやと思う。あの人、興奮したらネコの首意識失うまで絞めたがんねん...わえもケツ掘られながら何回落とされかけたか......」 「ひでえな......」 「こんなんが売れてんの?」 次々に出てくる俺らの不満と疑問。 瑠威というモデルの人となりはわかれへんけど、少なくともこんな内容のビデオに喜んで出るような嗜好があるようには見えへんかった。 そしたら、こんなビデオに出演させられた瑠威って、メッチャ可哀想なんちゃうの? そんな俺らの言葉に、大原さんは小さく首を振った。 「ここまでやったら、ただのイケメンがメチャメチャに犯されてるだけの内容や。そんなもん、恐るに足りん。けどな...こっからがこの瑠威の真骨頂ってとこやねん...ほんまにクソみたいなビデオやけどな、とにかく今は瑠威だけ見てくれ」 今すぐにでもこの部屋を出て行きたいくらいに不愉快になってたけど、大原さんの言葉に仕方なく椅子に座り直す。 ビデオの中の瑠威は意識の戻れへんまんまで裸に剥かれ、身体中をグルグルとロープで縛り上げられていった。

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