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悋気は恋慕に火を灯す【18】
大原さんの『ハードコア解禁』宣言はあったものの、せえからって俺らのやる事に大きな変化は無かった。
基本は相変わらずイチャイチャラブラブなセックスしてるか、ちょっとドラマ仕立てで嫉妬丸出しの取り合い3Pやってるか。
強いて言うなら、一つのベッドに同時に四人が上がる機会ができた事と、ドラマ部分にシリアスな設定が増えて無理矢理...っちゅうか、強引に押し倒したり手錠でベッドに繋いだりってシーンが出てくるようになったくらい。
俺ら全員、そこそこには芝居らしき物ができる事もあり、ドラマ仕立てのハードコアDVDは新しい俺らの武器として間違いのない売上を記録した。
ついでに、時々スカウトしてくる新人くんを手取り腰取り俺や武蔵が指導するビデオ作ってみたり、絡みもなんもないただのイメージDVDを発売してみたり......
それは、一発当たったからと美形モデルへのラフファックやハードコアがどんどん過激になっていってるゴールドラインに対してのアンチテーゼ。
俺達はまったく反対のやり方で着実に数字を上げる姿を見せつけていった。
「今度は本物のホストクラブ貸し切りにして、俺らモデル総出演でファンイベントやるらしいで。しかしほんま、社長って色々思いつくよなぁ......」
「ファンイベント!? そんなんわざわざ来てくれる人なんかおるんかいな」
「そらおるやろ。俺らが出したCDでも買うてイベント来てくれた人があんだけおったんやし。」
「握手会ら、わえには一生関係無いもんと思うちゃあったよぉ。恥ずかしかったぁ」
四人での組んず解れつを撮影して、今はシャワーを浴びたとこで休憩中。
腰の怠さがおさまったら、みんなで飯でも食いに行こうって話になってた。
「おう、アスカ。悪いんやけど急いで服着て、ちょっと事務所の方に来てくれ」
さっきまでラフなポロシャツにカーゴパンツを穿いてた大原さんが、何故かスーツ姿で顔を覗かせる。
「え~、今ぁ!? そんなん、無理やってば...自分があんだけ無理させといて」
実は腰が怠いんは俺だけ。
今日は俺の事が好きで好きで仕方ない三人が俺を取り合って、しまいには三人で共有する事になる...な~んて撮影やった。
三人を順番に相手すんのもそこそこしんどいのに、今日は同時。
ケツには武蔵と威の、口には翔ちゃんの...一度に三本のチンコを受け入れた俺の体はさすがにヘトヘトやった。
『話は後でね~』みたいな感じで手を振ってみたものの、俺を見る大原さんの顔付きが案外真剣でニヤニヤもしてられへんようになる。
「んもう、わかったって。すぐ着替えて下りるよ。武蔵、どっか店入ったら場所メールしといて」
しゃあなしに俺は立ち上がり、バスローブを脱ぎ捨てた。
来た時のままの格好に着替えると、エレベーターで一つ下の階に下りる。
俺が知り合った頃にはミナミの外れのきったない雑居ビルに入ってた本社事務所は、今は利便性も考えてスタジオの下の階に移転してた。
まあ元の事務所も、スカウトした男の子の面接場所として一応まだ残してはあるんやけど。
俺はインターフォンを押してドアを引いた。
「お疲れさまで~す」
フロア全部を使ってる上の部屋と違い、こちらはあくまでも普通のファミリータイプのマンションの一室。
編集やら在庫管理やらに使ってる部屋を横目に、本来はリビングのはずのドアを開けた。
椅子に座ったままの大原さんの向かいには、会うた事も無い女の人がきっちり膝を揃えて座ってる。
「おう、無理言うてすまんな。ちょっとこっち座ってくれ。あ、木崎さん...これがうちのトップ、アスカです」
木崎と呼ばれたその人は急いで立ち上がり、深々と俺に頭を下げてきた。
そんなんされる覚えも無いから、俺はそれよりももっと深く頭を下げる。
「はじめまして。お忙しいの中お呼び立てして本当に申し訳ないです。私......」
俺に向かって差し出された、ちょっと綺麗な名刺。
恐縮しつつもそれを受け取ると、薄いピンクの和紙でできたそれには、名前の上にイラスト化したミツバチが印刷されてた。
「株式会社ビー・ハイヴの木崎と申します。どうぞよろしくお願いします」
聞いた事のない名前に首を傾げてると、大原さんが自分の隣の席をバンバンと叩いた。
慌ててそこに座ると、タイミングを測ったみたいにジュディさんがコーヒーを持ってきてくれる。
俺はなんや居心地の悪さを感じながらも、淹れたてのそのコーヒーを静かに啜った。
「アスカ...木崎さんはな、お前を移籍させて欲しいって来られたんや」
ブッと思わず口に含んだコーヒーを吹き出し、大原さんの顔を見た。
悪い冗談やと笑い飛ばしてやりたかったのに、その大原さんの顔はやっぱり真剣で...何にも言葉が出てけえへん。
もしかして俺はもう...用済み...なのか?
あんなに頑張ってきたのに...あんなに数字を作ってきたのに...俺の居場所は、また無くなるんか?
「あー、木崎さん。アンタからとりあえず話してもうた方がええと思うわ。どうもコイツ、自分がいらんようになったから売り飛ばされるとか思うてそうやし。あのなアスカ、俺はお前の事を裏切ったりせえへん。せえからな、一回木崎さんの話、ちゃんと聞いてくれ」
裏切らない...大原さんは俺を裏切らない...そんな言葉をお祈りのように繰り返しながら膝に置いた手を握りしめ、俺はチラリとその『木崎さん』の顔を見た。
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