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悋気は恋慕に火を灯す【41】

アルコール入ってるっていうのに、頑張って走る。 いや、本来の目的を考えたら急ぐ必要なんてないし、寧ろゆっくり行ったらええはずなのに...それでもどっか、早よ帰らなあかんて焦るみたいな気持ちになってた。 抜けかけてた酒が改めてグルグルと回りだす中、俺と航生くんがタクシーを降りたコンビニへと入る。 いっこもお洒落ちゃうけど一応吊ってあるパンツを手に取った。 さらの下着は家にもある。 ここにあんのんより、ずーっと可愛いしお洒落や。 せえけど俺の目的は『理由を付けて部屋を留守にする』って事で、パンツ買うって目的は後付けやからしゃあない。 目の前にあんのはMとLの2種類だけ。 ビデオで見てた時の印象やと、航生くんてもっと細いと思ってた。 いや、あの頃はほんまに細かったんかもしれん。 せえけどさっきキスしながら腰に触ってみた時、案外がっちりしててちょっと驚いた。 ここは身長の事考えてもLを買うべきやろう...と選ぶ余地も無い黒のボクサーパンツをカゴに放り込む。 そのままドリンクコーナーに行って、普段滅多に買う事の無い缶チューハイも手に取った。 レジで金を払い、今度は走らんようにゆっくり歩いてマンションに戻る。 部屋におって欲しい...やっぱりこれが本音。 せえけど、いざシャワー浴びだした途端に冷静になるって事もあると思う。 俺に着いてきた事自体、酒の勢いとかノリやったんかもわかれへんし。 それで部屋をわざと空けた。 俺がおったら逃げにくいやん? もしほんまに冷静になって、ビビってもうて俺がおらん間に帰ってもうたとしても、明日俺が会議室で何も覚えてないフリしたらすむだけなんやし。 ドキドキしながら部屋のドアを開ける。 ......あ...靴あるやん... 浴室からは間違いなくシャワーの音が聞こえてた。 嬉しいような、どうしても無理をさせてるみたいで申し訳ないような変な気分のまま、白いビニール袋に入ったままのパンツをバスマットの上に置く。 一旦リビングに戻り、お気に入りのバスタオルもそこに一緒に並べといた。 しばらく聞き耳を立てながら、シャワーの音が止むのを待つ。 なんか...えらい時間かかってんなぁ。 ほらな。 やっぱりシャワー浴びてみたら酒が抜けてきて、出るに出られへんようになってんのかもわからん。 もう一つ用意した、航生くんの逃げ道アイテムに手を伸ばす。 それがチューハイ。 普段部屋で飲む事なんてまず無いそれにゆっくり口を付けた。 この部屋に入ってきた航生くんが少しでも暗い目をしてたら...... ほんのちょっとでも後悔の気持ちを感じたら...... そこから俺は手の付けられない酔っぱらいを演じる。 航生くんを待ちきれず、一人で勝手に酒を煽ったせいでベロベロのヘロヘロに酔っぱらった男。 当然モノも使い物にはなれへんし、その気すら失せてるって体で話を進めて、にこやかに航生くんを部屋から帰らせてやろう。 そんな算段でせっかく買ってきたというのに、もうぼちぼち缶の中身が無くなるっめ頃になってもまだシャワーの音は止めへんかった。 今度は別の意味で心配になってくる。 酒は俺よりだいぶ強いみたいやし、いっこも酔うてるようには見えへんかったからシャワー勧めたけど...まさか中でいきなりアルコール回って倒れてるって事無いやんな? よし、全部飲み終わったら様子を見に行こう...そう決めたくらいになって、ようやく続いてた水の音が止まる。 俺は中身がほとんど無くなった缶を握り直し、リビングのドアが動くのを待った。 なんやバタバタッて落ち着きの無い足音と同時に、俺の見つめていたドアがバンッと勢いよく開かれる。 一瞬部屋を見回してた航生くんの目は、シンクに凭れてる俺をすぐに捉えた。 その目を見た瞬間、身体中の血が沸騰してまうんちゃうかって錯覚する。 大袈裟やない。 それくらい嬉しいて、全身に鳥肌が立った。 航生くんの目に迷いは...無い。 それどころか、さっき風呂場に入ってく時よりもずっと色っぽくて欲の隠しきれてない目をしてる。 そうか...ちゃんと腹括ってきてくれてんな。 「あれぇ? わざわざ服、着直したん? どうせすぐに脱ぐのに。ほんで航生くん...大丈夫?」 これは最終確認。 答えはわかってるけど、やっぱり一応確認しときたかった。 いや、これは無理矢理付き合わせたんやなく、お互いの同意の上の行為なんやって、自分に免罪符が欲しかっただけかもしれん。 「えらい遅かったからさ...風呂の中で冷静になってもうてビビってんのかと思うた」 そう言った途端、何かに心当たりでもあんのか、航生くんはちょっと落ち着きなくアワアワしながら『すいません』て頭を下げた。 やっぱりちょっと躊躇いはあるんかな? せえけど今は、この先まで進んでええってことやんな? 「んもう、謝らんとってよぉ。んで、ほんまにかめへんの? 男と寝んの、久しぶりやろ?」 「は、はい、大丈夫です。あの、本当にすいません......」 腹は括ってみたものの、やっぱり不安なんやな。 目はともかく、航生くんの表情は固い。 俺は航生くんの手の中からバスタオルを引き抜くと、慌て過ぎてまともに拭いてなかったらしい髪の毛から伝う水気をそっと押さえた。 半開きのまんまで硬直してる綺麗な唇に、触れるだけのキスを落とす。 「そない緊張せんでええよ。何も心配せんとって。大丈夫...嫌な思いはさせへんからね」 まだ少し強張る頬を優しく撫でながら、先に寝室に行くように促す。 ほんまは、好きな人と手を繋いでベッドに向かう...な~んてのもしてみたかってんけどね。 でも、そこまで望むんは贅沢ってもん。 言われて素直に頷く航生くんの頭を優しくヨシヨシって撫でて、できるだけ緊張を解してやろうって笑いかける。 そのままバスルームに入ると、俺は一回『はぁーーーーっ』って息を吐いた。 生まれて初めて本気の本気で好きになった人と、これからセックスするんやなぁ。 客取ってた時は勿論、撮影でもこない緊張したこと無い。 考えてみたら、自分の部屋で自分のベッドでセックスすんのも初めてやった。 そら緊張もするわ。 せえけど俺が緊張してガチガチになってるわけにいけへん。 一番緊張して不安がってんのは航生くんなんやから。 大丈夫やで、航生くん。 ほんまに...ほんまに嫌な思いはさせへん。 俺との初めての夜の記憶を嫌な思い出になんか、絶対させへんから。 とっておきのボディソープでざっと体を洗うと、俺はすっかり慣れた手順でシャワーヘッドを外し、お湯を勢いよく溢れさせるホースをケツの間に近づけていった。

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