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悋気は恋慕に火を灯す【49】
航生くんの手はおろか、俺の胸まで飛び散ったドロドロの精液。
よう考えたら、こっち来てからセックスどころかオナニーもしてなかったなぁとかぼんやり考える。
気持ち良かったんやろうと思う。
いや、正直めっちゃ気持ち良かった。
久々の射精やったからとかそんなんやなく、前立腺を刺激する動きとか竿を扱く力の強さとか...耳の中にじわじわ染み込んでくる低い声とか。
どれもこれもがドンピシャで俺の好み過ぎて、余裕かますとか我慢するとかできへんかった。
せえけどやっぱり、俺を追い詰めながら航生くんが吐いた言葉がズシンて重石みたいに胸に乗っかって、どうしても素直にその快感に浸りきる事はできへん。
航生くんの気持ちも自分の気持ちもわかれへんようになってきて、ただ体が怠い。
......ついでに胸も頭も目の奥も痛い。
航生くんはどんなつもりで『セフレにして』なんて言うたんかな?
まだ入れたわけやないけど、俺とやったら体の相性が良さそうって思うたとか。
せえけど、今までまともなセックスなんて大してしてない航生くんに、あんだけの事で体の相性とかわかる?
......たぶんわかれへんよな...
そしたら、アレか。
これから自分と本番するって相手が、どこの馬の骨とも知らん人間と寝て病気でももうてきたら困るとか?
いっその事、自分とだけしてりゃまあ安全だろ...みたいな?
......でもそれやったら、撮影期間内だけでも自分以外とは寝てくれるなって言うたら済む話ちゃうん?
そしたらあれか。
俺と寝る事でセックスのテクニックが研けると思うたとか?
これはまあ、あるかも...みっちゃんて存在がある以上、しょっちゅう勇輝くんに相手してもらうってわけにもいけへんやろうし。
......でも、それやったら別に『他の人間探す前に自分呼べ』とか『どんな用事あっても絶対そばにおる』なんて事は言わんでもええんちゃうの?
......だいたい、今の仕事のフィールドは男女のAVの航生くんが、男相手のセックステクニック上達させたところで意味無いやろ。
わかれへん...ほんまに航生くんの考えてる事がわかれへん。
あの言葉だけ素直に受け取ったら、まるで『俺がいるから俺以外とは寝てくれるな』って言われてるみたいやん。
セフレって言葉さえ無かったら、まるっきり愛の告白みたいやん。
......でも、所詮はセックスフレンドなんよな
ほんで一番何がわからんて...俺自身の気持ち。
航生くんとこうして肌を合わせられるだけでも信じられへんくらい嬉しかったはずやのに、『セフレにして』って言われて傷ついた。
今まさに体だけの関係を築こうとしてるくせに、『心は繋がれへんの?』って思ってもうた。
そんなもん、矛盾してるやろ。
んで厄介なんが、『セフレ』やって言われてんのに、『呼ばれたらそばにおる』って言葉に嬉しいとか思うた事。
ヤる為だけに呼んでって言われたのに、『あなたのそばにいさせて』って愛の言葉囁かれたみたいな錯覚起こしそうになってる。
思いが募るばっかりで結局は報われへん、セックスだけの関係なんてやめとけって自分がおる。
でも、ほんまに航生くんがそばにおってくれるんなら、例え体だけの関係でもそれは幸せなんちゃうの?って自分がおるんも事実。
なんか、半分半分。
俺、どうしたらええの?
もうこれっきりにした方がええんかな......
ぼんやりしながら、何とはなしに後ろに目を遣る。
遅いなぁ...コンドーム見つかれへんのかなぁ...なんて思って。
そんな俺の目に入ったのは信じられへん光景......
目の前にはティッシュもあるしタオルもあんのに...航生くんはゴムの入ったケースをそばに置いて自分の手を見つめると、手のひらから手首まで伝った俺の出したもんをペロッて舐めた。
流れるそれを指先に向かって丁寧に舌で掬い取っていく。
ドクン...ドクン...鼓動が大きなる。
心が震える。
ドロドロの白濁を舐めてる航生くんの目は、愛しい物を見てるみたいに優しく細められてた。
穏やかで艶かしくて、やっぱりカッコ良くて......
好き...やっぱり...航生くんが好き......
今は体だけでもかめへん。
そばにいられるだけで十分。
半分半分やった気持ちは、片方にグググッて傾いていく。
俺の体が気に入ったんやったら、それはそれでええやん?
航生くんが俺から離れられへんて思うくらい...いつか『セフレじゃ嫌だ』って言わせるくらい夢中にさせたらええんちゃうのん?
だって、俺やったら好きでもない男の精液、仕事以外で舐めたいなんて思えへんで。
ドロドロ過ぎて興味があっただけかもわかれへんけど、それでも舐めてもええって思える程度には俺に好感を持ってんねやんな?
手に付いたモンを綺麗に舐め取ると、ローションの横に置いてたペットボトルの蓋を開けて水を口に含んだ。
音をたてへんようにしながら、口の中をクチュクチュ漱いでる。
それ見たら、改めてほんまに俺の精液舐めてたんやって実感してもうて、なんかちょっと恥ずかしい。
ずっと見てたんを航生くんに気付かれんうちに、俺は顔を前に戻した。
ガサガサと動く気配がして、ようやく航生くんが近づいてくる。
パチンと蓋を開ける音がして、さっきまで散々弄られまくってた所にまたそっと指が触れた。
少しだけ開かれたそこに、ローションがたっぷりと塗り込められていく。
......いつか好きになってもらおう
......いつか俺とは離れられへんて思ってもらおう
今はたださっきの言葉を含め航生くんのすべてを受け入れようと、俺はゆっくり体の力を抜いた。
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