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小悪魔モンモン【航生視点】

朝早い時間から行われた撮影で、今日の俺はクタクタだった。 うんざりしながら時計を見れば、もうじき日付が変わる。 タクシーの後部座席に体を深くめり込ませ、俺はちょっとだけ目を閉じた。 拘束時間が長いだけなら、それほど珍しくはない。 何度も何度も射精を求められるのだって、俺の仕事はそういうモンなんだからへっちゃらだ。 そう、単純に体の疲れがひどいのは日常茶飯事...そんなに苦になるものでもない。 じゃあ、何にこんなに疲れているのか。 すべては今日の絡みの相手役にだ。 元々結構グラビアの世界では有名で、写真集なんかもたくさん出している、いわゆるグラドル。 本人いわく『新しい自分を見せたい』とかなんとかって理由で、今回クイーン・ビー・レーベルからAVデビューする事になったのだ。 もっとも、グラドル時代から極端に肌の露出が多く言動もかなり過激だった事から、AV出演は時間の問題と言われてたらしい。 ただ、本人の要求するギャラがビックリするような金額で、食指を動かしていた各社共二の足を踏んでいた。 ギリギリまで金額と条件面での交渉を続けていたのが、『現役芸能人をハードに犯す』のが売りの一つである『スタンダード』という会社とビー・ハイヴの二社だけだったらしい。 金銭的にはスタンダードが提示した額の方がかなり高かったらしいけど、本人は『常に過激を追い求める』って内容に難色を示していたようだ。 そこにうちが勝機を見つけた。 内容はそれなりに過激だけれど、きちんとした台本もある『ただ犯される』だけのビデオではない事を説明し、さらに専属男優の中から好きな役者を選んでいいという話をしたらしい。 まあ、会社としては、知名度も色気もテクニックもダントツの勇輝さんが選ばれると思っていたんだろう。 普通誰が考えてもどんな女優に聞いても、おそらく答えは同じだ。 ところがこのアイドル崩れ様は...何を思ったか、俺が相手役なら考えてもいいとかぬかしてくれちゃった。 会社は契約さえできればいいんだから、即俺の出演を約束したらしい。 まあね...俺、専属だし。 会社がやれと言えばやるしかないんだけどさ。 呼び出され台本を渡された瞬間、正直頭の中が真っ白になった。 ......こんな内容、やった事無い... 何がどう転んだって勇輝さんの方がいいに決まってる。 っつうか、俺にできるわけがない。 なんとか断ろうと話してみたものの、すでに契約したから無理との一点張り。 しまいには、『航生くんもちょっと一皮剥けて、少しは大人の男に近づけるようになるよ』なんて諭される始末だった。 内容が内容だけに慎吾さんに相談する事もできず、せめて勇輝さんにアドバイスもらおうと思ったものの『やったじゃ~ん、これでお前も一人前』なんて酔っぱらった声で笑われて終わってしまった。 本当に疲れた...... 無事に撮影を終えられたとはいえ、慣れない設定におそろしく高飛車な相手役、おまけに普段ではあり得ないほどのマスコミの数。 緊張のせいか珍しく勃起にも射精にもやたら時間がかかっちゃったし、休憩時間には例のアイドル崩れ様がいきなり楽屋に押し掛けてきて襲われそうになるし。 どうやら、芝居はどうでもよくて...俺が彼女のタイプだから相手役に選んだらしい。 とにかく俺とセックスしたかったんだそうだ。 でしょうね。 俺にあんな芝居、向いてないし。 ただ、今日の撮影で何も得る物は無かったのかっていうと、そんな事はなかったと思う。 日常では無いにしても、自分の知らない一面を知る事もできたし。 いつか慎吾さんにもあんな事を...なんて望んでしまう事があるのだろうか? 一瞬さっきまで目の前にあった姿を慎吾さんに重ねてしまい、少し胸がドキドキする。 「お客さん、この先どっちに入りますか?」 「あ、もうここで大丈夫です。入ってもらっちゃうと、出るの大変ですし。どうもありがとうございました」 現場でもらったタクシーチケットを手渡すと、急いで車を降りる。 今日は一日過激な内容だらけで気持ちがちょっとトゲトゲしてるから、可愛い可愛い慎吾さんに一杯癒してもらおう。 明日は俺も慎吾さんも撮休だから、ゆっくりまったりできる。 なんなら充彦さんにもらったサングリアを炭酸水で割って、二人でそれを飲みながらのんびりと録り溜めたドラマを観るなんてのもいいかもしれない。 とにかく今は早く慎吾さんの顔が見たくて、俺は自然と小走りになっていた。

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