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フィクションの中のノンフィクション【4】
打ち合わせを終えた航生くんはわざわざ回り道をしてくれたみたいで、帰ってきた途端に俺に差し出されたんは今一番お気に入りのショコラ・ブティックで売ってるナッティー・バーやった。
ミルクチョコを思わせる淡いブラウンのその紙袋を見ただけで一気にテンションが上がる。
あんまり嬉しいて思わずその袋をキューッて抱き締めたら、航生くんもそんな俺がほんまに嬉しかったんか頭をワシャワシャって撫でてくれた。
「あ、新作のアイスクリームもあったんで、こっちは冷凍庫に入れときますね」
俺に渡したのと同じ色味ながら保冷仕様の分厚い袋を笑顔で掲げ、航生くんはキッチンへと向かう。
紙袋を手に俺だけがキャッキャと浮かれてるのもどうかとは思うたんやけど、台所に入った途端、今度は航生くんが『あーーーっ!』ってめっちゃテンション上がったようなでっかい声を出してきた。
「このサラダのチキンて、俺が漬けてたやつですよね? うっわ、使ってくれたんだぁ。あ、このドレッシングも俺の好きなやつ! あーっ、胡麻油の匂いすると思ったら、ナムルとスープもある!」
そんなん、いちいち大袈裟に喜ばんでも...俺が飯作る時のメニューなんて、たいがいこの辺ちゃう?
こっちからしたら、毎度毎度似たり寄ったりで申し訳ないくらいやのに。
......そりゃあまあ、料理見た瞬間に『またか』ってガッカリされるよりは勿論嬉しいんやけど。
「あー、ほんとにお腹空きました。早くご飯にしましょうよぉ」
鼻歌でも歌いだしそうなくらいのご機嫌さで、航生くんはアイスを冷凍庫に詰め始める。
いや、詰めなあかんくらいの量買ってきてる事にビックリやけど。
俺もキッチンに立ち、冷蔵庫から丸めておいたハンバーグを取り出した。
フライパンに薄く油を敷き、適度に温まった所で握りこぶしよりもはるかに大きいハンバーグを二つそこに乗せる。
最初だけはちょっとだけ強火。
集中してそのハンバーグの色と油の弾ける音の変化に注意する。
焼くのに気を遣うんは、実はここだけ。
縁がちょっと白なってきて、バチバチって音がジューッて音に変わるのをしばらく待った。
隣でキラキラの目で見てた航生くんはいつの間にか後ろに回り、俺の腰を抱きながら肩口から中を覗く。
「んもう...航生くん、集中できへんねんてばぁ」
「俺、何にもしてませんよ? 大好きなハンバーグが焼けるのを、大好きな人と見てるだけです」
何もしてへんなんて言いながら腰に回ってる腕には力が込められ、首筋に唇が押し当てられた。
もうそれだけでキュンて胸は痛なるしケツとチンチンはドクドクしだすし...正直料理どころの騒ぎやない。
せえけどやっぱり航生くんの体温に包まれてんのは幸せで気持ち良うて、怒る事も手を振りほどく事もできへん。
「ねぇ...気持ちよくなってきちゃいました? ご飯の前にベッド行きましょうか?」
「アカンてぇ...航生くん、お腹空いてるんやろ?」
「でもね、ハンバーグより先に慎吾さん食べたくなっちゃいました」
「もうハンバーグ焼き出してもうてるから...半端なとこで止めてもうたら、たぶん美味しいなれへんと...思うで?」
「ああ、それは困りますね」
ハンバーグの出来を口にした途端、驚くくらいあっさり航生くんの腕が離れていく。
そう、それはほんまに...俺が『ちょっと寂しい』って思うくらいにあっさり。
思わずその腕を掴んでもうたら、航生くんはちょっとだけ意地悪そうにニッコリ笑った。
「甘いデザート食べた後で、もっと甘い慎吾さんをたっぷり食べさせてくださいね」
......そんなん、もうちょっとだけ押したら、俺が拒んだりできへんてわかってるくせに。
てか、最初から本気で拒否なんかせてへんて思ってるくせに。
てか、てか...ほんまはもう航生くんとエッチしとうて堪らんくらい熱が上がってきてるの気づいてるくせに。
そうやってわざと煽っといておあずけとか、さすがにちょっとひどない?
なんかもう、変に焦らして面白がったりとか、意地悪なとこばっかりみっちゃんに似ていってる気がする。
またフンフン鼻歌を歌いながら料理をテーブルに運ぶ航生くんの背中にこっそり『ベーッ』て舌を出すと、俺は自棄っぱちみたいな勢いでハンバーグが半分ほど浸るまで水を入れてフライパンに蓋を落とした。
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「ごちそうさまでした。あーっ、ほんと慎吾さんのこのハンバーグの香ばしさと柔らかさ、すごいですよね...何回作っても真似できない」
航生くんはいつものように、米粒の一つも残さんと綺麗に出された物を片付けてくれた。
まだちょっと拗ねてた俺も、さすがにその何も無くなった綺麗な食器を見たら、機嫌直さなしゃあない。
『はいはい、お粗末さまでした』って笑って空いた食器をシンクへと運び水を流しだした所で、いつの間にか後ろにきてた航生くんにその水を止められる。
「洗い物は後から俺がやりますから。まずは一緒にチョコ食べましょ」
「いや、でもこんなん後に置いとく方が面倒くさなるし......」
「チョコ食べてセックス終わったら、慎吾さんが気を失ってる間に俺がちゃ~んと終わらせますよ」
......最初から気ぃ失わせるつもりかいっ!
ギッて振り返ってみたら、めっちゃ意地の悪い顔してるか、頭がぼんやりするくらいエッチな顔してるかやと思ってた航生くんは...なんか妙に穏やかで優しい顔をしてた。
そんな表情に、さすがに俺も拍子抜けする。
「とりあえずね、俺コーヒー淹れますからチョコレート食べましょう。今日ビーハイブで決めてきた事、少し話さないといけないし」
すっかり忘れてた。
俺と航生くんの...プライベートエッチビデオの話。
航生くんは、いくつか条件付けるって言うてた。
やっぱりその話は...聞かな。
「あそこのチョコやったら、酸味の少ないコーヒーにしてな」
「了解です。こないだ充彦さんからとっておきのピーベリーの深煎り豆貰ったんでそれにしましょう。濃いけどまろやかだから、きっとチョコレートに合いますよ」
航生くんは、コーヒーメーカーに初めて見る豆をスプーンに2杯とちょっと入れスイッチを押す。
いっぺんに部屋の中に広がる香りに頬を弛めながら、俺は紙袋から出したチョコバーをロイヤルブルーのデザート皿に丁寧に並べていった。
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