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フィクションの中のノンフィクション【8】
航生くんに右手をしっかりと握られながら、二人並んでのんびりと歩く。
アリちゃんは俺らのほんの少しだけ後ろ。
なんでも、超人気AV女優だったアリちゃんがカメラマンもインタビュアーも一人でやっちゃう!ってのも今回の売りの一つになるらしくて、声も顔も入って構わないらしい。
「は~い、全国のイケメンラブラブカップルファンの皆さん、こんにちは~。大変お待たせいたしました。本日は作品でもプライベートでも最高にラブラブキュートな姿を見せてくれてます、航生くんと慎吾くんに一日密着させてもらう事になっちゃいました。はいっ、航生くんと慎吾くん、ちょっと振り返ってご挨拶ご挨拶!」
「は~い、皆さんこんにちは~。慎吾で~す」
「あ、いつもありがとうございます。航生です」
「さあ、今日は夜の二人のムフフまで密着させていただくわけなのですがぁ...まずは今から何するの?」
「ちょっと歩くんですけど、駅の反対側にあるショッピングモールまで買い物に」
「もうちょい近くにもスーパーはあんねんけど、航生くんのパンツ買いたいから。あと、せっかくアリちゃんもおるし、ちょっと変わったお酒で乾杯とかしたいやん? あっちやったら洋酒とワインの専門店あんねん」
「や~ん、じゃあもしかして、今から航生くんのおパンツ見れちゃう?」
「見れちゃう、見れちゃう!」
「んもう、パンツくらいで騒がないでくださいよぉ...二人とも、中身知ってるでしょ」
しっかり繋いだままの手が、軽うチョンて引かれる。
それこそ俺もアリちゃんも中身なんかバッチリ知ってんのに、航生くんはたかがパンツの話で真っ赤になってた。
それだけ撮ったらカメラ下ろしてもうたアリちゃんと、3人でわいわい喋りながらモールに向かう。
目的のメンズブランドの前に着いた所で改めてカメラを構えると、先にアリちゃんが店の中に入った。
一番偉そうなスタッフさんを捕まえ、ブランドの特定はできないようにするから...と店内での撮影許可を取ってくれる。
ちなみにこの後寄る予定のリカーショップとスーパーには、予め航生くん自身が撮影許可を取ったらしい。
オッケーが出て、俺らはいつもみたいに店に入った。
スーパーはともかく、下着を含め着る物に関してはだいたい俺に決定権がある。
だって...ほっといたら航生くんてば上から下まで真っ黒、差し色すら無し!な~んて事を本気でやりかねん。
こんだけ男前なんやし、体も抜群に綺麗な航生くんやからこそ、やっぱり服も下着もTPOに合わせて変えて欲しいなぁって思う。
今日は仕事の時に穿くものと、プライベート用の最低2枚は欲しい。
カメラのレンズはしっかり無視して、俺は本気のお買い物モードに入った。
新作の棚から、まずは黒一色で競泳パンツみたいな肌触りの物を引っ張り出す。
形はローライズのボクサーで、独特の光沢と、股間を強調するみたいに入ってるパイピングがちょっとイヤらしい。
「これ、ええことない?」
「え、ええーーーっ!? なんかこれ、ちょっと卑猥な感じしないですか? すごいピッチリしてるし、ここに切り返し入ってるし......」
「せやで。ここのパイピングのおかげで、モッコリがバッチリ! おまけに、先っちょが濡れてきたら染みがジワーって広がってるの、めっちゃ目立つ!」
「目立つのヤダ!」
「ヤダちゃうっ! イヤらしければイヤらしいほど、お仕事の時にはみんなが喜ぶんやろ! ねー、アリちゃん?」
「うんうん、航生くんのはギンギンでビンビンでビクビクになるから、そりゃあもうこれくらい強調してあると見てる方だってジュンジュンよ~」
「いやもう...猥語を擬音で誤魔化さないでくださいよぉ......」
「ええから! はい、仕事の時はこのシックでドエロなパンツで決まりね~。次は、普段用のんを......」
今度はさっきよりも少し慎重になる。
まずは穿き心地が一番。
吸水性が良くて、適度に締め付けのあるやつ。
何枚か気にいった物を広げて並べてみた。
航生くんがよう着てる服、これから合わせていきたい色みを考えて1枚ずつ候補から減らしていく。
ダメージ多めでローライズのデニムの時には、見えても大丈夫なベルトにちょっと派手めの蛍光色使ってる黒とターコイズブルーのブリーフ。
これやったら、ダメージの隙間からパンツの裾が見えるとかなれへんやろう。
で、薄いベージュの七分丈チノパンとかの時は、下着が映らんように薄いグレーで穿き口がパイピングされてないタイプの柔らかいニットボクサー。
家でのんびり一日過ごせるって時は、脚も股間もリラックスって事でニットトランクスを1枚。
なかなか満足のいく買い物ができた!と会計して振り返ったら、なんか航生くんとアリちゃんは苦笑いしてた。
「パンツ、ガン見......」
「下着に限らず、俺の物選ぶ時はいっつもこうなんですよ。ものすごい真剣で...自分の選ぶ時はそんなでもないのに」
「そんなん当たり前! 航生くんは、自分のカッコ良さに無頓着すぎんねんて。どんだけ男前やと思うてんの? ほんまやったらありったけのお金使うて、ピッカピカに磨き上げたいくらいやねんで!」
「俺は別にピッカピカに磨き上げられたいなんて思ってませんから。慎吾さんだけがカッコいいと思ってくれたら、それでいいんです。慎吾さんが俺に似合うって考えてくれる物を着るのが嬉しいんです。だから、そんなに余計なお金使う事は考えないでください」
俺を見る航生くんの目ぇが、なんやめっちゃ優しい。
こんな風に『俺の為だけ』って言うてくれる航生くんが...やっぱり好き......
......アカン、チューしたい
「今は我慢!」
俺の指がちょっと上がったんに気ぃついたんか、それともいかにもそれっぽい顔でもしてたんか、アリちゃんがコツンて軽うに頭を叩いてきた。
「いっつもこんな感じ? こんなにしょっちゅう発情しまくりなの?」
「はあ...まあ......」
「ちょっと慎吾くんっ、アタシ止めなかったらどうするつもりだったのよ。ここでなんかしでかしたらお店の人に迷惑でしょ!」
「店ではせえへんよ! ただ...俺の気持ちは航生くんもわかってくれるから...ねぇ?」
「えっと...ちょこっとこそっと男性用トイレに駆け込んで...チュッとか......」
「あーっ、今日はアタシがそっちのトイレ入れないから、尚更これ以上はダメ! はいはい、次のお買い物活きましょ~」
どーしてもチューしたかってんけどな......
背中を無理矢理押されて店を出ると、膨れっ面のままの俺を置き去りにして航生くんとアリちゃんはさっさと一階へと下りていった。
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