チューは阻止されるわ置いてけぼりにされるわで相当機嫌を損ねてた俺に、アリちゃんが一階のスイーツコートに並んでる焼きたてのたい焼きを一つ買ってくれた。 それが想像以上に美味しいて、モグモグしながら目を剥いてしまう。 「悪くないでしょ？」 頬っぺたパンパンで、たぶんリスが頬袋にエサ溜め込んでるみたいになってるやろう俺にカメラを向け、アリちゃんはふんわりと優しいに笑った。 このモールに来たんは初めてとか言うてなかったっけ？って聞いたら、普段からこの店の本店でようたい焼き買うてるらしい。 「どう？　ご機嫌は直りまして？」 「......ん、直った」 航生くんもニコニコしながら俺の方に戻ってくる。 いつの間に買うてきたんか、まだ頬っぺたパンパンの俺にストローの刺さった烏龍茶のカップを差し出してくれた。 なんか、俺ってほんまに可愛がられてんなぁ、めっちゃ甘やかされてんなぁ...... それをチューーーッて一気に啜り、ちょっとだけ頭をキーンとさせながらゴクンて飲み込んだ。 「さ、それで次は？」 「スーパー行く前に、先にそっちのお店でお酒買いましょう」 また航生くんと手を繋ぐと、俺らは並んで歩きだす。 そういうたら、恥ずかしがり屋さんのわりに...航生くんて人前で手ぇ繋ぐんて抵抗無いねんなぁ。 二人で買い物とかする時は、たいがいこうして指まで絡めて手ぇ繋いでる。 女の子が振り返って二度見するレベルの男前の航生くんが男の俺と手ぇ繋いで歩くのん、嫌ちゃうんかな？ 「なあなあ、航生くん」 「はい？　なんですか？」 「俺ら男同士やん？」 「ですよ。え？　急になんですか？」 「俺ら手ぇ繋いでたらさぁ、結構みんなジロジロ見てるやん？　嫌ちゃうの？」 俺が不意に漏らした言葉に、アリちゃんが慌ててカメラを下ろそうとする気配。 それを航生くんは片手で制し、そのまま撮影を続けるように促す。 「周りの目なんて、俺には全然気になりませんよ。だって俺にとって大切なのは、慎吾さんの気持ちと慎吾さんの視線だけですから。だから、慎吾さんが恥ずかしくて嫌だって言うなら止めます。でもたぶん、慎吾さんは嫌がってなかったから今まで止めなかったんだと思いますよ。勿論これからもそうです。口に出さなくてもわかるつもりですから...慎吾さんが俺とこうして手を繋ぐ事が嫌だと考えるようになったら、そしたらその時は止めます。俺は、自分の大切な人とただ触れ合ってたいだけです」 はっきりとアリちゃんのカメラの前で言ってくれる航生くん。 もしかして、航生くんがどんどんカッコようなって、その事に俺がちょっと不安になってるんに気がついてんのかな。 わざわざ撮影を続けてもうたんは、俺への気持ちを改めてみんなに見てもらおうなんて考えてくれたんやろうか。 「それとも、俺と手を繋いでるせいでジロジロ見られるのって、恥ずかしいですか？」 「......ううん、見せびらかしたいくらい、めっちゃ嬉しい」 「はいはい、見せびらかすのはお手手繋いでるとこくらいまでにしといてね。ほっといたら、また『チューしたい』とか言い出しそうだわ」 「うん、言いたかった......」 「だーかーらー、それは家まで我慢ね。はい、次はお酒お酒！」 アリちゃんのカメラに『歩け』と前を示される。 またたい焼きで誤魔化されても腹膨れるだけやから、今度は素直に歩いた。 「ここです。まあ、ワインは高級な物よりニューワールド産の手頃な物が多いんですけど、ウイスキー含め洋酒全般の品揃えが豊富なんですよ」 「あ、航生くんはワインよりバーボン好きな人だもんね」 「焼酎とか日本酒だったら、もう少しこの通路の奥まで行くと別の専門店があるんですけど、普段はここで買う事が多いです。フルーツのリキュールも多いんで、慎吾さん用の甘いお酒も探せますし」 「そう言えばさあ、慎吾くんも勇輝くんと一緒にバーテンダーやってたんじゃなかったっけ？　今でもカクテルとか作れるの？」 「作れるっちゃあ作れるよ。まあ、シェイカー振ってるより腰振ってる方が......」 「んもう、また言ってる」 「だってほんまやし」 「じゃあじゃあ、今日は一杯アタシに作ってよ」 「えー！？　いや、せえけど部屋にシェイカーもストレイナーもあれへんしなぁ......」 「慎吾さん、ロンググラスならありますし、ステアするだけでいいカクテルとか無理ですか？　晩御飯前の乾杯だけ、俺も慎吾さんの作ったカクテル飲みたいです」 ロンググラスのカクテルか...... とはいえ、普段飲めへんのにわざわざ色とりどりのリキュールを揃えるってのもアホくさい。 家にあるモンとかこれから使えるかどうかを考えながら、色んなリキュールを手に取ってみる。 その時棚の隅っこに置かれた小さいボトルが目に入った。 今まで何回もこの店には来てるのに、こんなん気ぃつけへんかったなぁ...他のリキュールが色鮮やかでボトルも大きいから、小そうて地味なこれには目がいけへんかったんかもしれん。 「航生くん、家にコアントローあったかな？」 「コアントロー...ですか？　うん、ありますよ、お菓子用に常備してるんで」 「オッケー、そしたら決まり！」 俺は小さなその『ゴディバ』と書かれたチョコレートリキュールのボトルを手に取ると、真っ直ぐにレジに向かった。