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フィクションの中のノンフィクション【11】

~航生視点~ 俺らが買い物から帰ってきたら部屋の前に勇輝さんが待ってた。 いざカクテルを作るとなるとやっぱりシェイカーを使いたくなったらしく、慎吾さんがいつの間にか連絡を入れてたんだそうだ。 それでわざわざ、道具一式を持って下りてきてくれたらしい。 今は表舞台から遠ざかってる自分がチラッとでも出てる...なんてのもビデオの売りになるだろうからって、わざわざカメラに向かってピースだけして帰った。 ......なんか、面白がって様子見にきたとしか思えないんだけど。 でもこれで慎吾さんの作りたいカクテルも作れるんだし、実際チラッとでも勇輝さんが映ってるとなればかなり話題にもなるだろうから、面白がってるだけにしても感謝しなければ。 部屋に戻った途端、慎吾さんは買ってきた物を玄関先に放り投げて俺の胸に飛び込んできた。 モールでの買い物の時からとにかくキスしたがってたから、よっぽどムズムズ?ムラムラ?ドキドキしてたんだと思う。 確かにいつもなら、慎吾さんがあんなに可愛い顔したり俺を欲しがってくれたりしたら俺だって我慢できなくなるから、お互いの興奮をちょっとだけ鎮めるためにもチュッてしちゃうし。 トイレに駆け込んだり...更衣室のカーテンの陰に隠れたり...あとはまあ、人の波の途切れた瞬間を狙ったり。 感心できる事じゃないのはわかってるけど、それでもほんのちょっとのチュッだけで我慢できてるだけでもすごいと思うし、なんなら俺らメチャメチャ抑える努力してるつもりだ。 だって、ほんとならもっとしたいもん。 触れるだけのチュッなんかじゃなくて、絡めて啜って噛みついて、なんならしゃぶって穿って突き上げて泣かせたい。 それがいつだろうと、どこだろうと。 いつかこんな熱情は過ぎ去る時が来るのかもしれないなんてほんとはちょっと思ってた。 熱が愛に変われば、情けないくらいに昂る一方の欲も少しは遠のいていくのかなぁって。 周りからも結構言われてた。 『恋と愛は違うし、愛情とセックスは必ずしもイコールじゃないよ』なんて。 どれだけ愛情を感じてたって、いつかは飽きてよそ見したくなるのが男だし、寧ろ愛情を感じればこそ、段々と欲なんて生まれなくなって当たり前なんだよって。 だから時には浮気の一つもすればいいのに...大抵そんな話に繋がる。 でも、そうだろうか? だって2年以上こうしてずっと一緒にいる人に『誰よりも幸せにしたい』って俺なりの目一杯の愛を感じてる。 だけど、毎日毎日目が覚めるたびに恋してるんだ。 今日も綺麗だな、今日も可愛いな、今日もやっぱりかっこいいなってドキドキするし、そうしたらすぐにでも触れたいし抱き締めたいって思う。 そもそも飽きるって意味がわからない。 こんなに素敵で可愛くてイヤらしい人を、どうやったら飽きられるんだろう。 今だってほら...俺がしっかりこの体を受け止め、抱き締めてあげるだけで...泣きそうな目を向けてくる。 俺の体温が嬉しいんだって、俺の力が幸せなんだって訴えてくる。 本当に好きなんです。 あなたが本当に...大好きです。 靴も脱がないまま玄関先で何度もキスを繰り返す俺達を、もうアリさんは止めなかった。 ......もっとも、カメラはしっかりと向けられていたけれど。 ********** 「えーっとぉ...まずは先に慎吾くんがご飯と汁物の準備を......」 「あ、たぶんツマミにもなりそうなオカズも何かちょこっと作ると思いますよ」 「あれ? なんかそんな打ち合わせしてた? ご飯とお味噌汁の話してただけなんじゃなかったの?」 「お味噌汁じゃないんですけど...ま、それは食べたらわかるか。別に打ち合わせとかはしてないです。ただカゴに入れてた物考えたら、俺は今日使わないって物も入ってたから」 「あ、そうなの? じゃあまあ、先に慎吾くんがご飯と汁物とオカズを作ってくれてる間に、ちょっと単独インタビューしま~す」 「は~い、よろしくお願いします」 「航生くんとも慎吾くんともわりとよく会ってるんだけど、でも航生くんと絡んだのって結局デビューの時の一本だけなんだよね~」 「はいっ、あの時は本当にお世話になりました。俺のAV男優としての童貞はアリさんに捧げさせていただいて」 「とりあえず、最初っから知ってる友達としてぶっちゃけていい? 航生くんて、本当に!本当に!セックス下手くそだったよね~」 「あー、耳が痛いです...下手でしたよね...いや勿論今も全然上手くなんてなってないんですけど」 「でもぉ、今も現役でAVやってる友達に聞いたら、航生くんのセックスってすごいって言ってたよ?」 「すごいってなんですか、すごいって」 「その子に言わせると、みっちゃんとも勇輝くんとも全然違うって」 「みっちゃんとも絡んだ事あるとか、結構なベテランじゃないですか! ......あ、なんかそれ、誰かわかりましたよぉ...うわ、恥ずかしいなぁ......」 「みっちゃんとか勇輝くんのセックスってさ、強引なくらい次から次に快感を与えられ続けるんだって。ま、勇輝くんに関してはアタシもわかるんだけど、確かにものすごい快感でどんどん追い詰められてくって感じするもんね。でも航生くんとセックスするとさ、なんか自分の体の内側から勝手に快感が沸き上がってくる感じがするんだって」 「それは...いや、そんな風に言っていただいても...俺にはよくわからないし......」 「似たような話はね、実は他の子からも聞いた事あるのよ。テクニシャンていうのとはまた違うんだけど、とにかくガチで感じるって」 「あーっ、ちょっともう止めて...ほんと止めてくださいってぇ...恥ずかしくていたたまれないです......」 「まあ、ちょっと聞きなさいって。あのさ、アタシの知ってるあのセックスがド下手だった航生くんが、女の子が本気で気持ちよくなれるセックスができるようになったのって、やっぱり...慎吾くんが関係してる? 慎吾くんとセックスするようになってからどんどん上手になった感じ?」 「......それは、わかりません...ごめんなさい。慎吾さんは男性だから、当然女性とのセックスとは違うし。そもそも俺、共演してくださってる女優さん達をちゃんと気持ちよくしてあげられてるのかって...全然自信無いから。ほら、俺ってば潮吹かせる事もできないくらい、相変わらずテクニック無いんで」 「まああれはね、いわゆる男性向けのサービスみたいなもんだし、クイーン・ビーの作品には求められてないでしょ。第一、潮吹きゃなんでも気持ちいいってわけでもないんだし。もっとも、男の子の潮吹きってなるとほんとに気持ちいいみたいだけどさ。でしょ?」 「あ、でもイキっぱなしでわけわからなくなるし力も入らなくなってくるから、ものすごく疲れるしなんだか怖いみたいですよ。下はビショビショになっちゃって後始末も大変ですし」 「あれあれ~? それ、誰の話かな~?」 「......う、噂ですっ、噂!」 「へぇ...エクスプレスなんかで慎吾くんが嬉しそうに『時々めっちゃ意地悪で鬼畜やね~ん』とか言ってるの、ほんとだったんだ? いや、だってさ、潮吹いてガックガクになるまでずっと攻め続けてるわけでしょ? ほら、気を失うまでイカされるとか、失神してても攻められるとか言ってたの...マジだったのね」 「......俺だけじゃないもん...みっちゃんほど鬼じゃないもん...」 「いやいや、あの勇輝くん失神させるみっちゃんと比べるのもどうよ。てか、あれ並みって事なわけね...ああ、怖っ」 「でも...慎吾さん、もっともっとって...言ってくれるし......」 「それもすごいよねぇ...ゲイビの世界ではさ、今も慎吾くんてタチでもネコでもバリバリNo.1なわけでしょ? その慎吾くんが航生くんに抱かれてメロメロなんだから。もう、気持ちも体も全部が航生くんの事好き!って、今日はほんと実感させてもらったもん」 「慎吾さんがメロメロなんじゃなくて...俺がメロメロなんです」 「はいはい、お互いよね~。それもほんと、よくわかったわ...真面目な航生くんが、真面目にエロ魔人になってたもんね、エロエロ小悪魔の慎吾くんに見つめられて」 アリさんの言葉に、どんどん心拍数と体温が上がっていく。 慎吾さんの料理は、まだしばらく終わりそうになかった。

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