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フィクションの中のノンフィクション【12】

「このビデオ見てくれてるような、コアな二人のファンだったらきっと知ってると思うんだけど、もうほんとに航生くんと慎吾くんて空気がベッタベタに甘いんだよね......」 「そうですか...ねぇ? あ、いやそれは勿論、本当に俺慎吾さんが大好きだし、誰より大切にしたいって思ってるんですけど...でもほら、みっちゃんと勇輝さんとこも、アリさんと中村さんとこも相当ラブラブじゃないですか」 「そりゃあアタシ、まーくんの事大好きだもの、ラブラブで当たり前。でもね、航生くんとこはな~んか『ラブラブ』って簡単に言えない感じなんだよね...。なんだろ、上手く言えないんだけど...う~ん...目が合うたびに、声を掛け合うたびに恋に落ち続けてるみたいに見えるの。常に付き合いたてのフレッシュなウブウブカップルって感じ。いやまあ、ヤってる事は濃厚でエグくて、ちっともフレッシュじゃないけど」 「エ、エグいとか言わないでくださいよ! 『溢れる激情を抑える事ができない』みたいな、ちょっとポエミーな言葉で濁してください!」 「あー、それは無理。間近で見て色々知ってるだけに、ほんと無理。てかね、元々桁外れに強い精力と体力を毎回激情に任せて慎吾くんにぶつけてるんだから鬼よ鬼。おまけに、どこに埋まってるのか、浅いのか深いのかも全然わかんない地雷を慎吾くんが踏もうもんなら、スーッて顔から表情無くなるじゃない? いやもう、元が目付きの鋭い男前だからさ、隣で見てたら半端じゃなく怖いんだからね」 「あれはですねぇ...大抵は、変なスイッチ入っちゃった慎吾さんが、寧ろ敢えて地雷を探して踏んでいくんですって。そりゃあまあ、ちょっと逆上しちゃって色々やり過ぎちゃう所があるのは...否定できないですけど。でもそれも、慎吾さんが本気で嫌がってたら絶対しないし! 逆に、それを慎吾さんが求めてるから俺の地雷踏んでくわけ...で......」 「出たわ、見事なドSとドMのカップル。ほらね、やってる事はエグい、えげつない! で、毎晩のようにそんな汗と精液でドロドログショグショの濃密セックスしてるくせに、いつ会っても付き合いたてみたいに爽やかでウブウブっていうのがね...ほんと信じられないの。みっちゃんとこだったらさ、常にエロ空気がどっかプンプン纏わりついてるじゃない。そばにいるだけで妊娠しそうなくらいあの二人ってエッチじゃない。それがね、航生くんはいつ見ても真面目なウブウブで、慎吾くんは日に日に乙女になっていってるみたい見えて......」 「それはあの...俺、ほんとに毎日一瞬一瞬で慎吾さんに恋してるから...当たり前かも...です。どんな仕草見てもどんな表情見ても、胸がキュンて苦しくなっちゃって。昨日よりも今日の方が慎吾さんを好きで、明日は絶対今日よりも慎吾さんを好きになってて、もっともっとくっついてたいって思うから。俺がいつもウブに見えるなら...たぶんその時はまた慎吾さんに次の恋をしてるんだと思います」 「んで慎吾くんも、毎日毎時間航生くんにキュンキュンしてるせいでどんどん乙女になってるわけだ...ヒャーッ、すごいわ、なんかすごすぎる。言葉は同じ『ラブラブ』でもアタシらとは意味が違うんだもん、そりゃあ空気が甘くて甘くてゲロゲロ~って砂糖吐きそうになるのも当たり前だわ」 「褒めるか貶すか、どっちかにしてくださいよぉ」 「褒めてもないし貶してもない。アタシには絶対に無い感覚だなぁって純粋に感心して感動してるだけよ。あとはまあ、少しだけ羨ましい...のかもね。んで、その毎日毎日恋できるような素敵な慎吾くんに会ったのは、あの初共演した映画の顔合わせなんだよね?」 「うん、そうですね...撮影前の顔合わせで会ったのが初めてです」 「お互い一目惚れだったくせに、ずっと相手が自分をセフレだと考えてるって思い込んでて、それでもいいからそばにいたいってほんとの気持ち隠そうとしてたんだよね。あれ? この話ってもうどっかでしてたっけ?」 「あ、いや...二人の出会いについて話した事はありますけど、細かい事はたぶん話した事も聞かれた事も無かったと思います」 「確か、アタシとまーくんがみっちゃん達に結婚決まったって報告した時、勇輝くんの知り合いじゃないかって慎吾くん連れてきたんだよね?」 「正確には、知り合いだから連れてこいって言われて連れていったんです。エクスプレスで共演者について話した時、勇輝さんに心当たりあるような事言ってて、もしかしたらって写真送ってたから。元々慎吾さんが大阪からこっちに移ってきた理由が『ずっと会いたくて仕方なかった人が東京にいるから』だったんで一応聞いてみたら、慎吾さんの会いたかったって人っていうのがまさに勇輝さんだったんです」 「で、実はその共演者である慎吾くんの部屋で、既に同棲してたんだよね?」 「いやいやいや、同棲なんてとんでもないですよ。俺が一方的に部屋に転がり込んでたようなもんですから。慎吾さんは俺の体が気にいったんだと思ってて...東京にはまだセフレはいないって言ってたから、セフレでもいいからそばに置いて欲しかったんです。他の男の所に行っちゃうのがどうしても嫌で、でも俺みたいなのに本気で惚れられてるなんてバレたらきっと重いし嫌われるって思ってて...だったらせめて他の人の事考えられないように、黙って常にそばにいて、セックスしたくなった時はいつも真っ先に自分に声かけてもらえる状況作ろうとしてたんです。だから初めてセックスしてからは、毎日押し掛けるように慎吾さんの部屋に一緒に帰ってました」 あの頃の事を思い出すと、正直まだ胸が苦しい。 本当に自分の愚かさにイライラする。 部屋の中には、フワッと舞茸の香りが漂い始めた。

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