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フィクションの中のノンフィクション【15】

「ではでは、航生くんへの単独インタビューに続きまして、次は慎吾くんで~す。あ、思ってたより結構時間かかったね。炊き込みご飯とお味噌汁の準備だけじゃなかったんだ?」 「あと一応おかずも作ってたよ。まあ、ご飯にはちょっとだけ手間かけてきた」 「やだ、手間かけてくれたの? あ~ん、そんなの聞いちゃうと、食べるの勿体なくなっちゃう」 「そない言うてもらうほどのモン、作ってへんてばぁ。俺は基本的に手抜き料理ばっかりやもん。航生くんとかみっちゃんとか勇輝くんとか、あの人らが料理上手すぎんねんて」 「あの人達は別物だわ。まあ、当たり前か...これからプロになる予定が二人と、プロを唸らせる腕と舌の持ち主一人」 「そうやねん。俺だけ凡人やからさぁ、なんか肩身が狭い狭い」 「とかなんとか言いつつも、ちゃ~んと家庭料理は作れるんだもんなぁ...女性として、肩身が狭い狭い」 「よう言うわ。アリちゃんもめっちゃ料理上手やん。俺ね、アリちゃんが自分で作ってる塩麹めっちゃ好きやで。あれで作った唐揚げがまた旨いねんて」 「んふっ、ありがと~。あ、こないだからマッサも作ってるから、今度持ってくるね。一回使ってみて」 「マッサって...あ、パプリカの調味料か。あんなんまで作ってんの? わぁ、めっちゃ楽しみ」 「日本帰ってきたら、お土産と一緒にすぐ届ける~。あ、お料理の話ばっかりしてたら怒られちゃう。そうそう、このインタビューは二人のほんとの寝室をお借りしてるわけなんですがぁ......」 「嘘の寝室って何よぉ」 「ん? よそのお家とかセットじゃないよって意味」 「ああ、セットちゃうちゃう。せえから見てよ、恥ずかしいくらい私物っていうか、俺の洋服だらけやろ。まあ最近は新しいん買わんと、昔買うた服をリメイクしたりしてるから、さすがにこれより増える事は無いと思うんやけど」 「リメイクって...え? もしかしてお裁縫できるの!?」 「めっちゃ難しいんは無理やで? せえけど、ロックミシンの機能も付いてるわりと大きいミシン持ってる。一応レザーもデニムも縫える業務仕様のやつ。あ、さっき買い物の時に航生くんが持ってたレザーのボディーバッグ、俺と航生くんが昔来てたジャケットとブルゾンほどいて作ってん」 「......あのね、ほんとアンタ達色々才能有りすぎてムカつく」 「そんなん、俺のんはちょっとした趣味レベルや~ん。ずーっとフィギュアとか集めてたんが、洋服のリメイクに変わっただけやし」 「変わっただけって...あれだけのバッグつくれたら相当だと思うけど? いやまあ、今はそんな話じゃないのよ。慎吾くんて身長何センチだっけ」 「175はギリ無いなぁ」 「んじゃとりあえず、いわゆる男性の平均身長は超えてるわよね。で、航生くんは?」 「182~3くらいやで」 「大きいわよね、当然」 「ん? 何?」 「いや、前にチラッと勇輝くんからは聞いてたんだけどさぁ...マジでこのベッド小さすぎない?」 「そう? せえけど別に不便ちゃうで?」 「でもさぁ、この部屋で10畳ちょっとあるのかなぁ...これだけ洋服のラックとか並んでるのに、広さにはすっごい余裕あるじゃない。なのにこのベッド、セミダブルだよね? 慎吾くん達だったらさぁ、普通のダブルでも狭いくらいなんじゃないの? 勇輝くんとこくらいのキングサイズでも十分でしょ」 「いやいやいや、あんなアホほど大きいベッドはさすがに入れへんてばぁ。勇輝くんとこの部屋、ここの倍くらいあるやん」 「でも、普通のダブルなら余裕でしょ? こんな小さいベッドじゃ、毎晩毎晩の夜の運動会とか大変じゃないの?」 「その大変な場所で今から運動会の撮影しようとしてるくせにぃ。せえけどまあ、別にそない不便でもないよ。どうせピッタリ密着してるんやから横になれるだけのスペースさえあったらどうとでもできるし、あんまり激しいて体が逃げていきそうになっても、これやと逃げ場もあれへんからひたすら気持ちようなるばっかりやしね。それに俺、ちょっと狭いからって無理矢理体折り曲げられるくらいの方が、なんか支配されてる!って感じでめっちゃ興奮する」 「......出た、ドM発言」 「うん、ドMやと思う。勿論航生くん限定やで? 俺、自分の事はプチSのプチMやと思っててん。元々ヒィヒィ泣かせて『もう無理』って謝られるくらい攻めるん好きやったし、『無理!』って言うてんのに涙止まれへんようになるくらいまで攻めて欲しい気持ちはあってん。せえけどね、航生くんにやったらどんだけ激しいされても、どんだけ苦しいされてもどんだけ痛うにされても...全部が嬉しい、幸せなん。俺に煽られて興奮しまくった航生くんてね、『やめて』って言うても全然聞いてくれへんようになんねん。我忘れたら独占欲の塊になるみたいで、身体中吸いまくるし噛みまくるし...とにかく俺の体に痕跡を残したがってね。俺の体に残るそんな痕の一つ一つが、全部航生くんの気持ちやって思うだけで俺も最高に興奮する。そんな荒々しいて強引で乱暴な航生くんなんて、誰も知らんやろ? 俺にだけぶつけてくれるその気持ちがほんまに嬉しい。んでそこまで激しいにするんやけどさ、俺の気持ちを傷つける事は絶対にせえへんねん。意地悪はしても、嫌み言うような事も罵倒して喜ぶ事もない。気持ちは大事にされながら体はボロボロにされる...あー、もう最高に幸せ......」 「そこまで航生くんの事わかってるのに、な~んで根拠無いまんまで不安になるかなぁ。とりあえずまあ、セックスに不便は無いってのはわかったけどぉ......」 「うん、全然無い! まあ俺らの運動会は、運動場以外で開催される事もあるしね」 「玄関とかキッチンとか?」 「あ、キッチンはまだ無いかな。他は色々したけど」 「自由だねぇ」 「だって、いつでもどこでもしたなるやん、航生くんとおったら」 「だからだからぁ、まあセックスについては一旦置いとくとして、普通に寝るの不便でしょ。ちゃんと眠れる?」 「......眠れるよ。ううん、このベッドやなかったら安心して寝られへんかも。こんな大きいもないベッドやからね、航生くんは俺が落ちへんようにってギューッて抱き締めながら寝てくれんねん。寝返りのタイミングが一緒なんか、航生くんが背中向けたら俺がその背中にしがみついて、俺が背中向けたら後ろからしっかり抱き締められて...どんなタイミングで目ぇ覚めてもね、俺ら絶対にぴったりくっついてんねん。体温感じて、脈拍感じて...夜中でも朝でも目が覚めたら必ず航生くんを感じられるから...俺、このベッドやなかったらあかん。どうしてもこのベッドが良かってん。せえからこの部屋に引っ越してきた時も、結局このベッドだけは買い替えんの嫌やって前の部屋から持ち込んできた」 自分で話してて、なんや恥ずかしなってきた。 おまけに俺、航生くんの何が不安やったんやろう...どんなに愛されてるか、ちゃんとわかってんのに。 キッチンからは、まだなんの香りもしてこない...インタビューも航生くんの料理も、始まったばっかりだ。

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