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フィクションの中のノンフィクション【20】

「配信動画のダウンロード数が俺を抜いてからね、Gって会社は航生くんに『日本で一番のモデル』って肩書き付けて、ますますハードなビデオに使うようになった。1対8で前と後ろから同時にチンチン2本突っ込んで、それぞれの手で更に2本ずつ扱いて口にも2本...なんてのもあってんで」 「やだ、なんかそれ...さすがにヤバくない? アタシもダブルフェラくらいはあったし、嫌々でもサンドイッチファックなんかもしたことあるけどさぁ...男の子だとサンドイッチどころじゃないもんね?」 「まあいわゆる『二輪挿し』ってやつ? 俺も全然経験無いとは言えへんけど、しっかり準備しとけへんかったらほんまにケガしてまうし、正直セックスに慣れてる俺でも気持ちええもんやないねん。二人にバラバラで動かれた所で受け入れてる粘膜が不規則にあっちこっち引っ張られるだけやし、ほんまに気持ちええとこなんか突くことも擦る事もできへん。痛いし苦しいだけ。無茶苦茶に穴広げられて『このまんま穴が元に戻れへんのちゃうか』『チンチンでケツ裂けてまうんちゃうか』って屈辱と恐怖心を植え付ける為だけの行為やと思うてる部分もある。あ、勿論ちゃんと手順踏んで丁寧に拡張したげたら、それを快感て思える人もおるんやけどさ。でも航生くんに対しての行為は、その頃にはもう『どこまでやったら屈服するのか』って実験みたいになってたから...ケガせんように丁寧に拡張するとか、そんなんするわけないもんね」 「エグい事するわね......」 「うん、ほんまに。売れんようになったら航生くんは解放されるはずやってわかってたけど、どんどんエスカレートする内容に『今回は大丈夫やったかな?』って確認せな気ぃすめへんかってんな...売り上げにしたらあかんのに、それでもずーっと結局DVD買い続けてん。んでね、そのうち航生くんの武器は目ぇだけやないってスタッフが気付いたんやろうなぁ...撮影前とか撮影後に、オフショットとかフリートークが入るようになった。もうね、絶対会社から無理矢理言わされてるって丸わかりやねんけど、とりあえずふんぞり返ってあの長い脚組んで、めっちゃ落ち着いた抑揚の無い声で俺とかアムール自体に悪態を吐くわけよ。そのふてぶてしい雰囲気にあの顔、おまけに俺が一瞬でキュンてきた声がほんまにイヤらしいてさ...セックスはいっこも色気もテクニックも無いのに、普通に喋ってるだけでめっちゃイヤらしいねん。ボロボロにされてる航生くんには欲情した事無いけど、そのセックスしてない航生くんには欲情しまくりで...俺オナニーなんか殆どした事なんか無かったのに、その喋ってる航生くん見てたら猿になったんかってくらい自分でチンチン扱きまくってた」 「......慎吾くんもなんだ...」 「ん? 何?」 「ううん、今は何でもない。なんならそれもまた完成したビデオ見て。で、航生くんへの気持ちは決して恋じゃないと思い込もうとしながらも、それでも航生くんを追いかける事は止められなかった...のね?」 「そうやね...今考えてみたら、気持ちを勘違いや、隠せてるって思うてたんは俺だけやったんかもわからんなぁ...だってね、大原さんには最初から俺の気持ちバレてたし、武蔵も結局気ぃついてたんやろ?」 「らしいわね。でさ、そんな自分の中に生まれた初めての気持ちに封をしてまでも、その時は仲間を...友達を取ったのよね? 社長さんに『例え航生くんは助けられても、代わりにJUNKSから一人寄越せって要求されるだろう』って言われたんでしょ?」 「Gに寝返ったドSの変態親父がね、めっちゃ威の事気に入ってたんよ。せえから威と交換やったら航生くんでも出すんちゃうかって。自分の中のまだ正体のわかれへん感情よりさ、その時の俺には威のが大切やったもん。俺がもし泣いて頭下げたら...大原さんはほんまに威を交渉台に上げてくれたと思う。せえけどその後威が航生くんとおんなじ目に遭わされるなんて考えたら...それは絶対にできへんかった。なんぼ考えても、俺があの時航生くんより威を選んだんは間違いやなかったと思う」 「......その時の事情も状況もアタシにはわかんないけどさ、でもアタシもその選択は間違いじゃなかったと思うわよ。その時に航生くんを選んでたら、慎吾くんはもうアムールにはいられなくなったでしょ。確かに航生くんは酷い現場から助け出せたかもしれないけど、威くんを裏切った慎吾くんを、武蔵くんや翔くんが許せるとは思わないもの。航生くんはアムールで孤立し、慎吾くんは威くんへの罪悪感からアムールを辞める事になってたんじゃないかな。そうなったら5年後の今...きっと誰一人幸せになってる人はいない。慎吾くんの『今は仲間が大切』って判断は、間違ってなかったのよ」 「ありがと。俺もそう思うてる...今はね」 「今はなんだ? 威くんと交換するべきだったって考えた時期がある?」 「ううん、それは無い。航生くんは目的があったからこそギリギリでなんとか踏ん張れてたけどさ...威があそこまでされたら、たぶん耐えられへんかったと思う。心がバラバラに壊れてしまうと思うもん。そんな現場に、穏やかで優しいムードメーカーの威を行かせるわけにはいけへんから。あんな現場に耐えられるんは...理不尽な暴力と快感の伴わんセックスを知ってる人間だけや...そんな行為に慣れてる人間だけや......」 「それ、誰の事言ってる?」 「あのね...1年半くらいした頃やったかなぁ...新しいDVD見てる時にね、相変わらずバイブ何本も突っ込まれて顔真っ青にさせてた航生くんが、天井見上げて一瞬だけ悲しそうに笑うてん...ほんま一瞬だけやったんやけどさ、その笑顔の意味が全然わかれへんかって...俺ね、めっちゃ怖なった。航生くん、もうアカンかもしれん...もう耐えられへんかもしれんて。せえからね、俺が行くって言うてもええんちゃうかなぁってなんとなく考えるようになった。威みたいなマッチョちゃうけど...変態親父のお気に入りではないけど...数字だけやったら威より航生くんより、俺のが持ってるもん。航生くんとおんなじレベルのハードコアでもかめへんて言うたら、さすがに算盤勘定するやろうって。配信でなんぼ数が伸びても金額的には微々たるもんや。DVD購入っていう太客を掴んでる俺が行くなら、航生くんを手離す事にも納得するやろう...そんな風にぼんやり考えるようになってん」 「慎吾くん...そこまで? ビデオの中の航生くんの為に、そこまで考えてたんだ......」 「なんとなくやで? まだほんまにぼんやりやで? ただ、なんとなくそんな事考えだした頃にね...うん、神様ってやっぱりいてんねんな...俺の前に、クイーンズ・ガーデンの木崎さんが現れてん」 木崎さんの存在がどれだけ大きいんか、こうして改めて話してるとようわかる。 俺にとっての神様はほんまに...木崎さんやった。

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