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フィクションの中のノンフィクション【28】
「慎吾さ~ん、もう目開けていいですかぁ?」
「......まだ。もうちょっとだけ待ってぇ」
「んもう、今更そんな事恥ずかしがらなくても...俺、慎吾さんのどこもかしこも全部見てるつもりですけど」
「それとこれとは別!」
「俺が洗ってあげた事もあるし、うっかり中に出しちゃった時なんて全部綺麗にしてるのになぁ」
「なんか恥ずかしいねんてば、見られてるんは。洗ってもらうんより恥ずかしいの! 航生くんも、皮剥きながら綺麗綺麗してるんをジーッと見られてたら恥ずかしいやろ?」
「あ、まあ確かにそれはちょっとだけ恥ずかしいかな...って、今聞き捨てならない事を! 俺、剥かないですからね! 被ってないですよ! ちょっと皮伸ばすだけで......」
「んふっ、そんなん知ってるってばぁ。ちゃんと頭『こんばんは~』ってしてるもんね。ほら、俺が航生くんのチンチン洗ってあげてる時は、見てるんも見られてんのも平気やろ? 俺も航生くんが中洗ってくれるんは平気やし、下手したら気持ちようて興奮するくらいやねんけどね、自分が洗ってんのん見られんのは嫌やねん。やっぱりほら...カッコ悪いし」
「大丈夫ですよ、どんな慎吾さんでも可愛いですから。でも、慎吾さんが嫌な事はしませんから安心してください」
「それも知ってる。うん...ボチボチいけるかな。俺も入ってええ?」
「勿論。抱っこしましょうか?」
「ううん...なんかさ、今日はちょっと顔見られんのも恥ずかしいから...後ろからギュッてしてて」
「は~い。でも、慎吾さんが上に乗ってきたら、俺のんすぐお尻に当たっちゃうかもしれませんね」
「ん? そしたらその時はちゃんとナデナデしてあげるからね~」
「ナデナデなんてされたら、俺引っ込みつかなくなりますよ?」
「そしたら中で一回エッチしとく?」
「うわぁ、そんなのバレたら後からアリさんに雷落とされそう...」
「ふふ、確かに。あ、お邪魔しま~す」
「どうぞどうぞ。ああ、今日もイイ匂い......」
「何言うてんのん。おんなじ匂いやろ?」
「使ってる石鹸は一緒なのに、慎吾さんの匂いはなんか違うんですって。すごく甘い......」
「あっ...ん...航生く...ん、くすぐったいって...」
「ねえ、慎吾さん...」
「な...何?」
「怒ってないですか?」
「怒るって...何を...あ、ちょっとぉ...ほんま、アカンてば...そんなんしたら...痕が......」
「今回のビデオの話、引き受けた事...怒ってないですか?」
「はぁ...っ...んっ...なんで...なんで俺...っが...怒らな...」
「アリさんから聞いたんでしょ、俺が撮影受けた理由。余計な事しちゃったんじゃないかって...俺のその余計な事のせいで、却って慎吾さん傷つけてるんじゃないかって」
「アホやなぁ...俺ね、泣きそうなくらい...うぅんっ...こ、こら! マジでちょっとストップってぇ。そんなとこ触られたらほんまにイッてまうからぁ......」
「あ、すいません...ついやりすぎました。この後に置いとかなくちゃ」
「はぁっ...ぁん...もうっ、お湯が蛋白質たっぷりの入浴剤入りになるとこやろ」
「まあ、俺はそれも望むところなんですけど」
「アリちゃんにしばかれたなかったら今は我慢な。俺も今ケツの下でムクムクしてるモン、ニギニギしたいの我慢してんねんから」
「アリさんが怖いので我慢します」
「......怒ってへんよ、ほんまに。それどころかね、めっちゃ嬉しかった。航生くんはほんまに俺の事を一生懸命見てくれてんねんなぁって。俺の為にやったらこない必死になってくれんねんなぁって。嬉しいて嬉しいて、俺涙出そうやった。せえけどね......」
「けど?」
「なんかさぁ、嬉しいんと同時に、悔しいやら情けないやら」
「悔しいって...なんで?」
「航生くんは俺の為にこんなに俺の事考えてくれるのに、俺は自分の事ばっかりで航生くんに何にもしてあげられてないって」
「慎吾さんがいてくれるだけで、俺は強くいよう、優しくいようって思えます。慎吾さん以外じゃダメなんです...それどころか、俺きっと慎吾さんがいなかったらもうまともに生きていけないです。俺に無条件で甘えてくれる人がそばにいる幸せを知っちゃったから。優しく甘やかされる安らぎを知っちゃったから。慎吾さんがいいんです...慎吾さんじゃなきゃダメなんです。ずっと...ずっと慎吾さんだけだったんです......」
「ずっと? どういう意味?」
「あっ...今は...内緒です」
「アリちゃんもそんなん言うてたな...出来上がったビデオ観てって。でもね、俺もずっと...航生くんだけやってんで?」
「それも内緒ですか?」
「うん、今は内緒」
「じゃあ仕方ないですね」
「しゃあないよな。そしたら出来上がったビデオ、二人で観よか? あ、せえけど...航生くん、ドン引きするかもわからん」
「お互い様ですよ。俺も『きしょっ』って言われるんじゃないかってビクビクです」
「俺が航生くんにそんなん言うわけないやん。何を言うてたとしてもどんな事してたとしても、俺は今こうして俺を抱き締めてくれてる航生くんが好き」
「俺もね、慎吾さんが慎吾さんである限り...どんな貴方でも大好きです」
「ああ、もうっ...どうしよ...早よ航生くんに触られとうてムズムズしてきた」
「それは前ですか? 後ろ?」
「ブブーッ。全部やん、全部。前も後ろも中も全部。あかんなぁ...ほんま航生くんとくっついてたら、『もっと、もっと』ってめっちゃ欲張りになってまう」
「俺に対してならどんどん欲張りになってください。俺も慎吾さんに対してだけは我が儘で欲張りになってますから」
「......航生くん、ごめんね」
「急に何?」
「先に謝っとく。俺ね、せっかく航生くんが色々考えてくれてんから、少しだけ冷静な部分残して仕事用の顔作れるようにするつもりやってん。せえけどね、絶対無理...航生くんとするエッチで顔作れる自信なんか全然あれへん。やっぱりメッチャ感じて、メッチャ乱れてまうと思う。せえから...ごめんね」
「その為のアリさんですから。慎吾さんは何にも考えないで、ひたすら俺に喘がされててください」
「んふっ、そしたら遠慮なく。ただ、意識飛びそうになったら、その時は加減してな?」
「善処します。さ、そろそろ行きましょうか。アリさん待ってるし、俺も...下手したらこのまま『あっ、うっかり滑りました』なんて突っ込んじゃいそうです」
航生くんの足の上から下りたら、ザバッて立ち上がった航生くんがごく自然な動きで俺の手を取る。
手を繋ぎ指を絡め、そしてしっかりと見つめ合うと一度だけ軽く唇を合わせ、俺らは浴室を後にした。
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