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フィクションの中のノンフィクション【43】
【航生視点】
「お疲れさまでした。あ、これ...枕元の固定カメラです。なんか...長々とすいません」
「んもう...まったくよ! これで体位変えてもう一回戦...とか言い出したら、さすがに後ろからひっぱたくとこだったわ」
「......そう思われそうで、一応遠慮したんですよ? あ、コーヒーでも入れましょうか?」
「そうね、一杯だけもらったら帰るわ。でも...あんな慎吾くん、ほっといて大丈夫?」
「ああ、今は動けないってだけで、別に失神してるわけじゃないから大丈夫ですよ。ちゃんと体も綺麗にしましたし。ウトウトしてるような、でもなんとなく起きてるような...って感じでフワフワして気持ちいいらしいんで、今はちょっと休憩させといてあげたいんです」
「ほんとに? まあ、それなら別にいいんだけど」
「はい、どうぞ。夜ですし、あんまり濃いのもアレかなぁと思ったんで、充彦さんオリジナルのブレンドにミルク入れてきました。お腹は空いてないですか? なんなら夜食でも......」
「あー、いらないいらない。お腹も胸もいっぱいだってば」
「お腹も胸もって......」
「......アタシちょっとね、正直ビックリしちゃった」
「ビックリ...ですか? 何に?」
「そうよ。なんて言うのかなぁ...とりあえず、あれもこれも、とにかくビックリしたの」
「そんな事言われてもなぁ...でも一応、限りなく普段のセックスに近い感じで頑張ったんですよ?」
「それよ、それ! 普段からアレって...とりあえずさ、よく『航生は鬼畜!』とかみんなにからかわれてたじゃない? あの意味がよ~くわかったわ。ほんとアンタ、鬼ね」
「えーっ!? 俺、そんなひどい事してなかったでしょ? すっごい優しくしたつもりなのに......」
「まさか噂通りの『失神しててもお構い無しに腰を振り続ける』を見られるとはね」
「だーかーらー! あれは失神してるんじゃないですってば! ちょっとイキっぱなしになってて、体の自由が利かないってだけなの! 今日は飛ばさないようにちゃんと加減しましたもん」
「あれ、加減て言うの!? もう口半開きでヨダレ垂らしながらアーウー唸ってたじゃない!」
「でも、気持ち良さそうだったでしょ? 幸せそうだったでしょ?」
「そりゃあ、まあね...目とかトロンとしちゃって、それでも航生くんの事は必死に見つめようとしててさ...ま、焦点合ってなかったから、まともに見えてなかったとは思うけど」
「仕方ないじゃないですか...慎吾さんを目一杯気持ち良くしてあげると先にイッちゃうから、俺も気持ち良くなろうとするとどうしてもあの状態になっちゃうし。AVでも、女優さんをガンガンにイカせた後から男優が顔射とか腹出しとかするんだからわかるでしょ?」
「その通りだけど、なんか素直に『そうそう』って納得できないのよね......」
「別にマシンバイブとかで強制的に一方的にイカせてるわけじゃないんだし、二人とも幸せで気持ち良くなってるんですよ?」
「......みっちゃんもこないだ言ってたけど、最近の航生くん、結構言うよね~」
「まあ、慎吾さんが絡んでる事だけです。他は何にも変わってないと思うんだけどなぁ」
「その慎吾くんが航生くんの全部を構成してるんだから、航生くん自身が物凄く変わってきてるんじゃないの?」
「......だと...いいですね。俺、慎吾さんとずっと一緒にいたいから...もっと強く、大きい人間になりたいんです。慎吾さんに飽きられたくないし...俺と一緒にいて良かったって思われたい......」
「まったく...よく言うわよ。あんなにお互い求め合ってて、何が今更『飽きられたくない』なんだか。そんな事言ってるの聞かれたら、慎吾くんに怒られるんだからね」
「あははっ、確かに。俺が時々慎吾さんの口癖を注意するのと一緒だ」
「まあでもさ、いつでも相手を満足させられるのは自分だけだ!なんて自信過剰になるよりはいいんじゃない? 時々不安になる事で、改めて相手の為の自分を考えるようになるだろうし」
「そういう事にしといてください」
「それにしてもさ、今日のセックスでほんとに加減してんの?」
「してますよ。いつもだったらあんなに慎吾さんさっさとイカせないし、もっと体位変えながら時間もかけますから。あ、でもそれは、次の日に慎吾さんの仕事が無い時だけですよ? そこはちゃんと考えてます」
「あれで加減ねぇ......」
「ちゃんとイヤらしく可愛く撮れてましたか?」
「ちゃんと撮れてたかどうかは明日の映像チェックしてからじゃないと何とも言えないし、そもそも撮影したのアタシだから約束はできないけどさぁ...でも、これだけは言える。二人とも最高に幸せそうで、最高にエロかった。アタシ、カメラ置いてオナってやろうかと思ったもん。悪いけど濡れ濡れよ。なんならパンツ脱いでみようか?」
「中村さんに殺されます」
「一時復帰とかどう? マジで3Pに持ち込めないかとか考えちゃったんだけど。だってだってぇ、航生くんがあんなにセックス上手くなってて、あんなにイヤらしくなれるなんて知らなかったも~ん」
「わかってるくせに...あれは慎吾さんに対してだけの特別な顔です。セックスも上手くはなってないと思いますよ、慎吾さんの体が特別なだけで」
「はいはい、特別相性がいいわけね。わかってる、わかってる。あとさ、航生くんが慎吾くんの顔を誰にも見せたくないって意味もわかったわ」
「......でしょ?」
「ちゃんと男の色気はプンプンなのに、航生くんに一生懸命甘えて縋っておねだりして...あんな風に抱かれてる姿は、そりゃあ独占してたくもなるよね」
「俺だけが見られる顔なんです。俺だけに見せてくれる顔なんです。あの顔見たらね、なんかもう頭が爆発しそうなくらい興奮しちゃって...大事にしたいのに壊したくなって、だけどやっぱり大切に守ってあげたくて......」
「途中、その気持ちが抑えられなくなったでしょ? 敬語使わない航生くんとか、すっごい新鮮だった」
「......ありゃ、またやってましたか。時々あるみたいなんです。今日の慎吾さんの乱れっぷりは凄かったなぁとは思ってたんですけど」
「ああ、航生くんの言葉遣いが変わった途端、慎吾くんの反応大きくなってたね、そう言えば。そうか...あんな風に荒々しく、正面から独占欲ぶつけられるのに興奮するんだ...さすがドM。で? 航生くんも編集立ち会うんでしょ?」
「勿論。そういう約束ですから」
「了解、了解。んじゃ悪いんだけど、さっきの絡みのとこ、映像見比べてカット割り頼んでもいい?」
「慎吾さんの表情とか、結構バッサリいっちゃうと思うんですけど...大丈夫ですか?」
「勿論よ。それこそ『そういう約束』でしょ? その為に固定カメラももう1台置いてたんだし、アタシも邪魔にならないように色んな角度から撮影したんだもの。ただし......」
「ただし?」
「お買い物と料理とインタビューに関してはアタシが責任持って編集するから、完成までは航生くんにも見せないわよ。オッケー?」
「え? 完全シャットアウトのつもりですか?」
「そーですっ! 何か問題ある?」
「......インタビュー、すごく気になってたんですけど...」
「航生くんだけが先に見たらズルいでしょ。できたら真っ先に届けてもらうようにするから、二人で一緒に完成品を見なさい。わかった?」
「......はい」
「あ、コーヒーご馳走さま、美味しかったわ。じゃあ、そろそろアタシ退散するね」
「待ってください。タクシー呼びますから」
「平気平気。まーくんがそろそろ下に待機してるはずだから。もっとも、あんまり絡みが長過ぎてみっちゃんとこ遊びに行ってるかもしれないけど。とりあえずアタシの心配はいいから、早く慎吾くんのそばに行ってあげて」
「今日は...一日本当にありがとうございました。無理をお願いして...すいません」
「いいってばぁ。二人の最高にイヤらしい姿見せてもらったし、それをオカズに今日はハッスルしちゃうわよぉ」
「ちょ、ちょっと......」
「嘘よ、ウ・ソ。あのね、二人が出会うべくして出会った運命の相手だったんだなぁって改めてわかって...アタシもほんとに幸せになった。二人と友達になれて良かったって思ったの。アタシこそありがとうね...アタシも、精一杯まーくんの事大切にするわ」
「アリさん......」
「じゃあね、おやすみ~。日本に帰ってきたらすぐに編集に入るから、スケジュールとかちゃんと確認しといてね~」
「おやすみなさい。本当に...本当にありがとうございましたっ!」
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