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【SS】蕩ける顔

遠くに行っていた意識がだんだんとゆっくり近づいてきて、やがて頭の中にカチリと嵌り、解錠されたように目が開く。 いつも目覚めをこんな風に機械的に捉えている。 今日一番最初に視界に飛び込んできたのは、リョウの顔のどアップだ。メガネをかけなければほぼ何も見えない視力でも、はっきりとわかるふにゃけた顔。さては、かなりの間、こうして寝顔を見ていたに違いない。起き抜けに少し嫌な気分になった。 「…何」 「おはよー」 これほどまでに甘い表情と声を、なんで自分なんかに向けることができるんだろうこの男は。理解不能、呆れる気持ち、とはまた別に、違う感情がむくむくと湧き上がる。 「えっ、あ?いきなり?なんでもう硬くなってんの」 「生理現象だろ」 覆い被さってやるとあたふたと慌て出す。だけど、知ってるんだからな。 「…笑ってるだろ」 「バレた?」 今度はじゃれる子どもみたいに笑ってる。ずっとお利口に待っていて、やっと親に遊んでもらえる子どもみたいに。 その顔も、次第に蕩けそうな顔に変わってゆく。これは、俺しか知らない顔。 俺にはいろんな面があって面白いって、確か言ってたよな。 だけど、そっちだってたいがいだからな。 もっと、いろんな顔が見たい。全部、俺に晒け出してほしい。 いつからこんなに欲深くなったんだか。 呆れるほど貪欲な自分に辟易しながら、もっともっと蕩けさせてく。 責め立てて、昇らせる。 その先の顔は知ってるけど、何度でも見たいから。 【おわり】

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