6 / 95
【SS】蕩ける顔
遠くに行っていた意識がだんだんとゆっくり近づいてきて、やがて頭の中にカチリと嵌り、解錠されたように目が開く。
いつも目覚めをこんな風に機械的に捉えている。
今日一番最初に視界に飛び込んできたのは、リョウの顔のどアップだ。メガネをかけなければほぼ何も見えない視力でも、はっきりとわかるふにゃけた顔。さては、かなりの間、こうして寝顔を見ていたに違いない。起き抜けに少し嫌な気分になった。
「…何」
「おはよー」
これほどまでに甘い表情と声を、なんで自分なんかに向けることができるんだろうこの男は。理解不能、呆れる気持ち、とはまた別に、違う感情がむくむくと湧き上がる。
「えっ、あ?いきなり?なんでもう硬くなってんの」
「生理現象だろ」
覆い被さってやるとあたふたと慌て出す。だけど、知ってるんだからな。
「…笑ってるだろ」
「バレた?」
今度はじゃれる子どもみたいに笑ってる。ずっとお利口に待っていて、やっと親に遊んでもらえる子どもみたいに。
その顔も、次第に蕩けそうな顔に変わってゆく。これは、俺しか知らない顔。
俺にはいろんな面があって面白いって、確か言ってたよな。
だけど、そっちだってたいがいだからな。
もっと、いろんな顔が見たい。全部、俺に晒け出してほしい。
いつからこんなに欲深くなったんだか。
呆れるほど貪欲な自分に辟易しながら、もっともっと蕩けさせてく。
責め立てて、昇らせる。
その先の顔は知ってるけど、何度でも見たいから。
【おわり】
ともだちにシェアしよう!