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【SS】居場所はここに

遠距離恋愛など出来るのだろうか、と、不安いっぱいでスタートした、彼との交際。 主に実家暮らしのリョウが、一人暮らしのアヤの部屋に泊まりに行くのが習慣となっている。頻度は二ヶ月に一、二度といったところ。 普段、甘い言葉やイチャイチャなんかは全く無縁のぶっきらぼうな彼ではあるが、付き合い始めて直ぐに、あれこれと、滞在中に必要なものを買ってくれた。部屋着、枕、スリッパ…… 歯ブラシとコップはお揃いにした。夫婦茶碗に憧れたものの、ろくろく料理をしないふたりなので、購入は見送った。 以前付き合っていた恋人のところへは、週末ごとに泊まりに行って、翌日は連れ立ってどこかへ出かけた。けれど、滞在用の日用品を買おうだなんて話にはなったことがなかった。食事は作ってもらったが、いつも間に合わせの容器と割り箸で食べていた。結局最後はけっこう悲惨に振られた。 その分余計に、今の幸せがかけがえのないものだと痛感する。 自分はここにいていいんだ、ここが居場所なんだと思うと、胸がじんわりと温かくなるのだった。 「ごめん、飲み物何も無かった」 ことん、と当たり前のように、水の入った同じ形、同じ色のコップがふたつ、テーブルに置かれる。 それを見てまた、嬉しくなる。 こいつらは、おんなじで、いつもそばにいて、羨ましいな。 コップに少し、妬いてみる。 「何か飲み物買いに行こ」 リョウは満面の笑みでそう言うと、アヤの手を取って立ち上がった。

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