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そんなこんなのおいしいはなし 2

 元から大きな口をさらに大きく開けて豚饅にかぶりつくアヤの様子を微笑ましく眺めながら、リョウもせわしなく頬と口を動かしている。しっかりよく噛んで味わうリョウは食べるスピードが少し人より遅めだし、反して飲むように食べるアヤはとても速い。  案の定、リョウがようやく二個目を手にした頃には、アヤは二個目を完食し終えた。指に少し残った薄皮を舐め取り、時には脂で光る薄い唇で指を吸ったりしているのを見ていて、リョウは先程までの微笑ましい気持ちにとって代わる別の感情がふつふつと沸いてきた。 「ん?」  視線に気づいたアヤに問いかけられ、なんでもない、と慌てて豚饅にかぶりついた。  アヤが立ち上がったかと思うとリョウの背後にまわってきて、肩越しにリョウが手にしている豚饅へ顔を寄せた。 「もっとちょうだい」  言いながら、返事を待たずに今にもかじりつきそうだ。 「待って、いくらなんでも」 「だめ?」  豚饅からリョウへと視線を向けた至近距離のアヤに、未だにどきどきしてしまう。 「だめっていうか、その、昔俺いっぺんに三つ食べて腹壊したことある、から……」  好物なのに何年も食べていない理由はこれだった。アヤはリョウから顔をそむけて、口に手を当てて少し肩を震わせると、すぐまたリョウに、ではなく豚饅に視線を戻した。そして 「あっ!」  リョウの叫びも虚しく、アヤの大きな一口は一度で半分近くの量を持って行ってしまった。すぐ隣で大きく頬をふくらませて何度か咀嚼すると、喉仏を大きく上下させてゴクリと喉を鳴らす、その音まで聞こえた。 「ごちそうさま」  ようやく気が済んだようで、満足げに何度も舌なめずりしながらアヤはソファに腰を下ろした。  リョウはとりあえず、半分になった残りの豚饅を急いで平らげると、アヤの元へ向かい、座っているアヤを無言で押し倒した。無防備だったアヤは簡単に組み敷かれる。 「リョウ?」  そしてきょとんとしているアヤに、リョウは薄笑いを浮かべながら言ってやるのだ。 「美味そうなアヤが悪い」

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