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素直なキミも手がかかる 1

 製薬会社の、それも開発企画部といえば、やはりというか当然というか、薬物マニアやおくすりオタクが何人かいる。国内で認可を受けてない怪しげなブツや、商品化される前の段階の他社の試作品など、どうやって手に入れているのかはわからないが、そんなものがたびたびオフィスに登場する。 「あれのお陰で彼女の浮気疑惑が晴れた上に実はけっこう愛されてるのまでわかってしもた」  と後輩がデレデレしているかと思えば 「うちもクソ生意気な息子に飲ましたったら『お母ちゃんいつもありがとう』って……」  古株女性社員が目を潤ませていたりと、いつにも増して賑やかなオフィス。リョウが何の話?と首を突っ込むと 「これこれ。これ飲んだらあっちゅう間にめっちゃ素直になってまう魔法のオクスリやで」  見るからに怪しげな色味の、ボトルに入った液体。粗雑な印刷のラベルには『スナオナール』の文字。よくこんなヤバそうなモノを家族に飲ませるなあ、と思いもしたが……  よくよく考えてみた。  めっちゃ素直になってまう、やと?  ということは、普段めっちゃ素直じゃない奴に飲ませたら、おもろいことになるんちゃうん――  数日経って、明日はアヤと会える日。  リョウはまだ例の液体を持っていくかどうか決めあぐねていた。  アヤに飲ませたい。その気持ちは揺るがないのだが、飲ませた後どうなるだろうか、何を言われるのだろうか。アヤの本音を聞くのが怖いリョウだった。実は厄介に思われていたりして。わがまま放題言っているのは自覚がある。  一応持って出よう。使うかどうかは、その時の状況で判断する。  結論を先送りにして、その夜は眠りについた。

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