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遠距離恋愛の日
今日十二月二十一日は遠距離恋愛の日です
スタッフルームで休憩中、FMからそう伝える声だけがアヤの耳に入ってきた。
普段そんな自覚は全然ないのだけれど、一応当事者だったっけ、と思い出す。遠距離であることも恋愛中であることも、日常生活においてはともすると忘れがち。しかしそれだけ相手を軽んじているのか、というと、そうではない。
今日十二月二十一日は遠距離恋愛の日です
帰りの電車、スマートフォンでたまたま開いたニュースサイトから、そんな文字がリョウの目に飛び込んできた。
そういや、せやっけか。
もう遠距離恋愛をしている自覚も薄れていた。遠くて会えない、もっと会いたい、そんな気持ちが、付き合い始めた頃よりも薄れていた。しかしそれだけ相手への愛情が冷めたのか、というと、そうではない。
せっかくだから、電話してみよう。遠距離恋愛の日だから、という口実で。
リョウは電車を降り、自宅最寄り駅の改札を出ると、送信履歴一番上の相手にリダイヤルした。が、珍しく話し中のツーツー音が虚しく鳴り響いた。まだ勤務中のはずなのに、誰と電話なんてしているのだろう。リョウはそわそわと落ち着かなくなった。
家に着いて、自室に戻ってからかけ直してみたら、呼出音に切り替わり、すぐにアヤの声が聴こえた。
「さっき誰かと話してた?」
「いや」
嘘をつかれた? 隠そうとているのか? リョウの心に疑惑の波がざわめき立つ。
「さっきかけたら話し中やったんやけど」
わずかに低めのトーンで言うと、ああ、とアヤは何かを思い出したよう。
「リョウにかけたら、話し中だったんだ」
「そう、なん?」
「うん、休憩中、今日は遠距離恋愛の日だってラジオで言ってて、それで」
「……なーんや」
「なんやって何だよ」
ムッとした口調で言い返してくるアヤのことなどお構い無しに、リョウは嬉しくて胸がいっぱいになった。同じ時に同じものを見聞きして、同じ行動をとっていただなんて。
「な、またテレビ通話しよ?」
「しない」
「じゃあ好きって言うて?」
「言わない。なんなんだよもう」
「ふふふ。アヤ大好き」
「わかってるよ」
言っていることは憎たらしいが、それまで心底鬱陶しそうだったアヤの声が少しだけ甘くなったように感じられて、リョウはまた愛しさや喜び、幸せで心が満たされた。
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